月ノ夜
第1章 夕暮れ時 転入生
月が出てきた。その周りにはまだ沢山の雲があるのに、月がある所だけぽっかりと穴が空いていて、その光が地上に降り注いで来ている。
もう、飲み物なんかどうでも良い。月が出てきたという事は、猟奇事件の次の被害者が私になってしまう可能性も出てきたという事だ。
私は慌てて踵を返した。……けど、佐崎の事が気になって、数歩進んだ所で立ち止まって……自販機の方を振り返った。
佐崎は、まだそこに居た。月が出てきてしまった事に、気づいていないんだろうか?
教えた方が良いだろうか、でもどうせすぐに気づくだろうし……と、私が逡巡していると、風に流されて佐崎の声が聞こえてきた。
見てみると、どうやら誰かと話しているようだ。でも私の居る位置からじゃ、佐崎の身体が邪魔でその誰かが見えない。
何にせよ、一人じゃなくなったのならまず安全だろう。だって被害者は皆、一人の所を襲われたらしいから。
となると、今一番危ないのは私だ。佐崎はあの誰かと一緒に帰るだろうから、安全。そう思い、私はもう一度踵を返した。
……その瞬間、風に流されて聞こえてきていた佐崎の声が、ピタリと止まった。
風向きが変わったか、帰ったかのどちらかだろうと思い、私は別に気にする事は無く、そのまま家まで走って帰った。
部屋に戻ると、やっぱり猫は私のベッドですやすや寝ていて、これじゃ寝れないなと思いながら、私は何の気なしにカーテンを少し開け、そこから外を見た。
さっき、風に流された雲から顔を出した時はいつもと同じだった月の色は、血のように紅く染まっていた。
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