2008年の師走、有馬記念当日、ヒロシは中山競馬場にいた。
年末の大勝負を控え、競馬場の観客たちには、ざわめきがひろがっている。
朝から競馬場にいたヒロシの収支は、ここまで、プラス1万5千円。
これを有馬記念に全額ぶち込むつもりで、パドックでじっと馬を見ていた。
やはり、ダイワスカーレットは、いい。
勝つのはこの馬ということで、ヒロシと島の意見は一致いていた。
問題は、2着、3着の馬なのだ。
ヒロシには、確信があった。
2着は、そう、今まさに目の前を通過していく馬・・・
6番エアシェイディに違いない。
エアシェイディは、昨年の秋から確実に良くなって、レースごとにその内容も進歩している。
この大一番で頑張れるに違いない。有馬記念のような大レースは、精神力のぶつかり合いでもある。
強気の後藤騎手の力もさらに、エアシェイディのパフォーマンスを押し上げるだろう。
3連単を買うつもりのヒロシは、その後もパドックを食い入るように見つめたが、どの馬もよく見える。みんな、ここを勝負と馬をピカピカに仕上げてきている。
馬券の購入締め切りまで、あと十分。
ヒロシは、島の姿を探したが、見つからない。
中山競馬場は、11万人を越える入場者の、欲と怒りと、希望に満ち溢れ、もやっていて、
とても、島の姿を見つけることは、できそうになかった。
ここは、自分で決断しなくてはならない。
ヒロシは、3連複と3連単のどちらにするか、しばし、迷った。
でも・・・、100万円を狙うには、3連単、これしかない。
ヒロシは、一気に、投票カードを塗りつぶしていった。
2008年の有馬記念がスタートした!
ゲートが開き、真っ先に飛び出したのはダイワスカーレットだ。黒光りする馬体の重心をぐっと沈めながら精密なマシンのようによどみなく、走っていく。
13頭の先頭にたったダイワスカーレットは、そのまま、無人の荒野をいくように、最後の直線にむかっていく。
ここで有力馬たちが一斉に追い上げを開始する。
5頭が襲い掛かっていく。
ダイワススカーレットの鞍上でチラッと後ろを見た安勝が、追い出し始める。
追いすがる馬たちの脚色は、もはやバタバタだ。
ダイワススカーレットは、そのままゴール前でひと伸びすると、一着で、ゴール板を駆け抜けていく。
「よおし!!」ヒロシはうなった。
ダイワは勝った。あとは、2着に穴馬が来れば!
ヒロシの狙った馬は、7歳馬エアシェイディと、あともう一頭アドマイヤモナークだった。
これも7歳馬だ。
しかも最低人気馬だ。
単勝90.2倍、複勝18倍~の超穴馬だった。
追い込み馬で、実績があるのはほぼ中山だけ・・・、しかし・・ヒロシは考えた。
ダイワクカーレットの逃げに、他の馬は無し崩しに脚を使わされ、最後の直線で
へたるに違いない。そこへ剛腕、川田の全力追い込みがはまるはずだ!
その通りの展開になった。「モナーク~!!」ヒロシは叫び続けていた。
抜け出して2着で粘りこみを図ろうとするエアシェイディに襲いかかるアドマイヤモナーク、躍り上がるような川田の力技にモナークが応え、2着でゴールを駆け抜けていく。
3連単985580円!!!を100円。
それとダイワとモナークのワイド7160円を1000円っていたヒロシは雄叫びをあげ、拳を突き上げた!
しめて1057180円。
よおおし、これで競馬で生活していく元金ができたぞお。