ダークセル
第1章 プロローグ
光の一切届かないはずのこの暗室の中にありながら、猛雄が目を開くと、天井の煤けた漆黒のクロスの破れ目やしわが見えた。
この暗室に閉じこめられてから、もう何日が経っただろう。猛雄は日付と時間の感覚を失っていた。最後に食事と水をを与えられてから、何時間経つかもわからない。空腹はそれほど感じないが、ひどく喉が渇いていた。だから二十時間ということはないにしても、七、八時間は経ったのだろうか。
今外は盛夏のはずだ。密閉された部屋の空調は切られていた。蒸し暑さに体温は上昇し、汗は額や背から、流れ続ける。再び、渇き死にするのではないという恐怖が、猛雄のぼんやりとした意識に、時々浮かんでは消えた。
猛雄の両腕は天井から伸びた二本の鎖に繋いだ、革手錠で拘束されている。手首には汗が滲んでいた。右腕の内側には点滴の針が刺され、近くに立ったスタンドにぶら下げられた瓶から、得体の知れない液体をゆっくりと、猛雄の体内に流し込み続けていた。
全裸のからだは仰向けに、ハンモックのような革製の「ブランコ」に乗せられていて、両足は大きく開き、膝を折って、やはり皮の足枷に拘束されている。口にはボールギャグを噛まされていて、よだれが、止めようもなく口の端から流れ落ちていく。
苦悶に歪んでいるその顔は、まだ未熟な少年のそれだった。猛雄は自分の容姿に自信を持ったことなどはないが、決して美男子ではないにしても、眉は太く、男性的で、大人になればいかめしい、力強さをたたえることになるであろう素地は、すでに窺える。
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NIGHT
LOUNGE5060