壱の魔術
第2章 第1章 梅雨前線停滞中-1
6月上旬。梅雨(つゆ)に入ってきてまもない頃にそいつは嵐のごとくやってきた。それは、天気予報が一週間ほど雨が続くといった湿っぽい中での出来事で、俺はこの高校に行かずに別の高校に行っておいた方が良かったのかもな、とつい思考(しこう)してしまうほど面倒くさい出来事だった。
月曜日。俺は入学式当時と変わらず、いつものように教室に行くまでシンといっしょ(むりやり)に登校して教室の中に入った。教室の中はいつにもましてにぎやかだった。
「…………」
俺はシンの声に耳を傾けるのをやめ、黙った。シンは俺がなぜ突然黙ったのか、解釈(かいしゃく)出来たらしく微苦笑(びくしょう)している。いつにもまして。
俺は自分の席の正面に立った。座ることが出来ないのだ。なぜか、そこに見知らぬ少女が居座っているのだから。
「おい。そこをどいてくれないか?俺の席だ、俺が座れないじゃないか」
その声に反応して肩まで伸びている茶色いやわらかそうな髪を揺らしながら少女は振り向く。その少女はかなりの美人、いや美少女だった。とにかく俺が言うくらいだから間違いない。
顔は何から何までどこのパーツも整っていて、特にくりくりした愛くるしい目と人形のような高貴な鼻が印象に残る。優しい笑みを浮かべていたらついこっちも微笑(ほほえ)み返してしまうだろう。とにかく、お美しい。
身長は、俺よりテニスボール2個分低い。胸部はきれいに浮かび上がっていた、わけではなく平らではないが一般の女性に比べると少し…。
しかし、その美少女の表情は残念なことにかなり不機嫌そうだった。それは、俺が話しかけたその時からだ。それ以前はつまらなそうな表情だった。
そいつはクリッとした目をこちらに向けて、
「何言ってんの?この席は私の席よ」
「はあ?昨日まで俺が座っていたぞ」
「知らないわよ、そんなの。だって私は今日転校してきたんだもの」
「だろうと思ったぜ。初めてみる顔だからな」
「そうよ。それで先生にここの席に座れって言われたのよ」
……。
面倒だな、このクラスは。「とにかくそこは俺の席だどいてくれ」
「いやよ」「どけ」「や」「どけ」
「あんたもしつこいわね。とにかくここは私の席なの!」
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