暗黒神話①
第7章 闇で企む者④
やはり一度しっかりと調べてみなければなるまい。思い立ったが吉日だ、今夜行ってみよう。誰かに見つかっても学生が興味を押さえきれなかっただけだと言えば納得してくれるだろう。
そう考えて決行の準備を始めた。
準備とは言っても目立たない色で動き易いジャージと懐中電灯―地方の夜道は暗い。この時代は街灯もまばらだったし、K村はS市民から田舎扱いされるエリアだった―そして万一の用心に小さな折りたたみナイフを用意しておいた。もし警官に見つかれば大変だが、そんな事を言っていられない程の危険が待ち構えているかも知れないのだ。使わずに済めばそれで良し、そうでなければ……覚悟を決めるしかないだろう。だが最大限人を(人間以外かも知れないが)傷つけないで済まそう。枝松は自分にそう言い聞かせた。
午後10時になり行動を開始する。家族には気分転換に1時間ほどジョギングして来ると伝えて家を出た。何しろ来年は受験生だ、家に居る時も勉強ばかりしているのだから気分転換も必要だろうと言う事で怪しまれる事は無い。ナイフはジャージの右ポケットに入れ、左手に懐中電灯を持って走り出す。半月が照らしてくれるとは言え田舎の夜には必需品だ。
スポーツはそれほど得意なワケではないにしても現役の高校生だ、30分も走らないうちに教会に到着しし、呼吸を整えてから施設内に侵入する。出入り口は五芒星の突端全ての中央辺りの両側に設けられているのを昼間のうちに確認している。便利がイイのか悪いのかよく分からない構造だが、取りあえず鍵がかかっていないのは幸運だったと言えるだろう。西側突端部のドアノブを回すとすんなり開いたのだ。
中に入ると真新しい木材の香りがする。そこかしこにカンナ屑やオガ屑が散乱しており、いかにも建築中といった雰囲気が醸し出されていた。内部に侵入した事を周りに見られないよう用心して懐中電灯は低い位置に持ち下に向けて照らしているが、やはり慣れない事をしている為か不安で落ち着かない。
だがグズグズしていられる状況でもないのだ、まずは外壁にそって五芒星の突端部をぐるっと一周する。
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