暗黒神話①
第2章 夢に現れたもの
翌朝はけたたましい目覚ましの音と、なかなか起きて来ない僕に業を煮やした母がドアを叩く音でやっと目を覚ました。精神的には余裕が出て来たのに何故夢だけがエスカレートしていくのか疑問だったが、考え込んでいる暇は無い。身支度を整えて学校に行かなければならない。だが、鏡の中の自分を見た瞬間愕然とした。
すっかり痩せこけ目は落ち窪み、目の周りにはどす黒いクマがハッキリと出ていた。正直「腐っていないだけゾンビよりマシ」といった状態だ。
その日は学校を休み病院に行ったが過労と診断され、栄養剤を点滴しただけだった。入院は拒否した。何故かは分からないが、無性に自分の部屋に居たかったのだ。
さすがにココまで来ると、明らかに夢と自分の状態との関係を疑う事は出来なかった。何処にも悪い所は見当たらないし、普通の生活を送っていて僅か数日でこんなになるなんて考えられない。
だが夢のせいだとしてどうしたらいい? 夢をコントロールするなんて出来ない。眠らないというのも不可能だ。正直眠る事に対して恐怖と期待が入り混じっているのも事実だ。眠る度に変わり果てていく自分への恐怖。夢の中で虹に包まれている間だけ味わう安らぎ。その二つが僕の中でせめぎ合っていた。
自室のベッドの上でそんな事を考えているうちにウトウトして来た。自覚症状はないが酷く衰弱しているのは間違いないのだ。
程無く夢を見た。
僕は虹色の光に包まれている。なんと美しいのだろう。なんと暖かく静かなんだろう。
きっと母胎の中で眠っている胎児もこんな気分なんじゃなかろうか。ずっとこの中にいたい。ずっとここで眠っていたい。
あの叫び声も聞こえない。だが眠りの中で僕は確信していた。この虹は本当にヨグ=ソトースなのだと。「あらゆる存在と隣接している」のだから、「僕とも隣接していた」のだと。
僕はたまたま夢を通してヨグ=ソトースに触れたのだ。そして僕の精神は徐々にヨグ=ソトースに取り込まれていっているのだろう。眠る度に。
だがもう、そんな事はどうでもいい。ただココで眠っていたい。さぁヨグ=ソトースよ、僕をこのまま虹色の眠りにつかせてくれ。目覚めた後の事はどうでもいい。
次の衰弱に僕の体が耐えられるかどうかなど、もうどうでもいいのだ――
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