DEAREST -another story-
第3章 In the forest:泉
「本当に入るのか?」
温かくなってきたとはいえ、泉の水はとても冷たい。
ここに来てしばらく、月日の感覚がなくなり気候で季節を感じるくらいしかなくなったので、今がどの時期かはっきりとは判らないが、大体初夏ぐらいだろうか。
水浴びには少々時期が早い気がした。
「入るぞー!シルエも入ろう!」
まるで子供のように笑う青年に、シルエは小さく苦笑を浮かべる。
二人で風邪をひいたりしたら目も当てられない状態になるだろうに、そう思う反面一生懸命自分の気分を変えようとしてくれている彼の気持ちを嬉しく感じていた。
二人して風邪をひいてしまっても、まぁそれはそれで一緒に寝ていればいいかなどと考えてしまう始末である。
そうこうしているうちに、ラトが勢いよく衣を脱ぎ始め、下着だけの状態になったところでそのまま泉に飛込んだ。止める間もなく行動を起こしたラトに、シルエが目を瞬かせる。
「ぅわっ!!つ…冷たっ!!!」
水面に顔を出したラトが、温かくもない水に肩まで浸かって身を縮め、ぶるると震えて身体をかき抱いていた。
びっくりしていたシルエが耐え切れないとばかりに笑い出す。
「だから言ったのに。」
高く澄んだ声が森に響いた。
僅かに涙の浮く眼を指の背で拭いながら、シルエは笑い続ける。その様子に、少しだけ恥ずかしそうに目元を染めたラトが、すぐに嬉しげな笑みを浮かべた。
次いで彼の顔に浮かんだのは、悪戯を思いついたような子供の笑みだった。
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