DEAREST -another story-
第6章 闇の記憶 1 *残酷な描写があります
シルエは弟を抱きしめる腕に力を入れ、一心不乱に祈った。
どうか、籠に気づきませんよう。
どうか、そのまま立ち去って。
自分達だけは生きて、父と母の血を繋いでいくために。
母が自分の命を盾にして守ってくれた命を紡いでいくために。
シルエは祈った。
「――――。」
「…――ぃ―。」
しかし無常にも声は遠ざかることなくだんだんと二人に近づいてくる。
時折響く何かが割れる音。
戯れに壊した何かが落ちる鈍い振動。
「――――っちはどうだ?」
「あぁ、荷が積んであるな。」
「金目の物が無いか探せ。」
嗚呼、もう逃れられない。
そう判断したシルエは、咄嗟に弟の首筋に噛み付いた。
ビクリと跳ねた小さな身体は、そのままゆっくりと脱力し重みを増す。
開放した弟はすっかり意識を失い、ぐったりと目を閉じていた。
それを確認したシルエが手早く毛布で弟の身体を覆い隠す。小さな弟は分厚い毛布で包むとまるで枕のように見えた。
ほっと彼女が息を吐いた瞬間、振動と共に籠の蓋が外され一気に暗闇に光が差した。
「っ!!こんなところに隠れてやがった!」
「ひっ!!」
声と共に伸びてきたのは、無骨な男の太い腕。
それはシルエの銀色の髪を掴むと、そのまま引きずり出すように持ち上げられた。
痛みにシルエが小さく悲鳴を上げる。
「おーい!!もう一匹見つけたぜーっ!!」
仲間を呼んでいるのだろう。
髭面の男はシルエの髪を掴んだまま後ろを振り向いて大声を上げた。
僅かな動きに、頭部でぶちりと嫌な音がした。
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