DEAREST -another story-
第6章 闇の記憶 1 *残酷な描写があります
大陸の北、一年の殆どを氷に閉ざされた大地の端に、シルエの生きる集落はあった。
吸血族の殆どは、定住することなく何十年か毎に移動しながら生活している。それは、異形の力を求める人間の欲望から逃れるという理由の元である。
シルエの一族も例に漏れず、彼女が生まれる少し前にこの北の土地に移住してきたのだ。
彼女の一族が氷の大地に根付いて二十年の時が過ぎた頃。
ある晴れた日の早朝、それは唐突に始まった。
ビュウ――
風を切り裂く音と共に放たれたのは十数本の矢。
それらは、いつもどおり狩の準備をしていた男達や朝食の準備に水を汲んでいた女達を貫いた。運悪く頭や心臓を打ち抜かれた者は即死だった。
否、寧ろ苦しまずに逝くことができたのは運が良かったのかもしれない。
そこから始まった襲撃は、まるで地獄絵図のようだった。
真っ白な雪の大地に、どす黒い赤が散っていく。
最初の矢で脚や腹を打ちぬかれた吸血族は、回復の間を待たず集落に侵入してきた人間達に四肢を潰されていた。
外に出ていた吸血族たちが動けなくなったことを確認した彼らは、次に物音を聞きつけて氷で作った家から出てきた者を襲い始めた。
何人かの吸血族は、それなりの抵抗を見せたものの、殺さずを貫く彼らはそう長い時間持ちこたえられず、多勢に無勢で押し潰されていった。
おそらく三十程の人数がいたかもしれない。しかし、恐怖と混乱で頭がいっぱいになっていたシルエには全てを把握することが出来なかった。
そうして、集落に積もった雪が真っ赤に染まった頃、奥まった場所にあるシルエの家にも、ついに人間の魔の手が伸びてきたのだ。
両親と弟とシルエ。四人が暮らす小さな家。
裏手からは悲鳴のような犬達の声が聞こえていた。
朝、彼らに餌を与えに出ていた父は未だ戻らない。
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