DEAREST -another story-
第3章 In the forest:泉
この森に二人で暮らし始めて随分経つが、実はまだ二人は本当の意味で結ばれてはいない。
それは、シルエの中に燻っていた過去の苦悩も理由の一つだが、ラト自身物心ついたときから聖職に身を置いていたので世間一般の男児が抱く諸々の欲望をいまいち理解していないというのも原因の一つだった。まぁ、そうは言っても彼とてきちんと成人を迎えているので、一通りの知識や一人での行為くらいは経験済みなのだが。
そういうわけで、彼らは未だに清い関係を続けているし、それに対してあまり疑問も持っていなかった。
昨夜苦悩を解決し、すっきりしているシルエに至っては、まぁなるようになるだろうという何とも達観した考えである。
そんな二人はというと、ラトの発案で今日はシルエも伴って小屋の近くにある小さな泉に来ていた。
この森には地下水が多く流れているらしく、至る所に綺麗な泉が湧き出ている。
水の周りには大きな獣も多く集まるため、本来ならば危ないのだが、たくさんの泉や川が流れているため、縄張りさえ避けていれば大きな獣に出くわす危険もなかった。
居着いてしまえば本当に済みやすい森である。
ラトとシルエが普段から使用している泉は、小さいがとても綺麗で、苔むす岩に囲まれた勝手の良い泉だ。小さいといっても他に比べてという意味で、牛や馬を入れても余裕があるくらいなので、そこそこの広さを持っている。そこから流れ出している小川には魚も多く生息しているので、普段ラトはこの川沿いを釣り場にしていた。
今日は釣り目的ではないので、直接泉に来ている。
「やっぱりまだ少し冷たいな。」
柔らかな緑の苔に素足で立ち、片足を泉に浸しながら小さく呟いた。
その背後では、乾いた岩の上に布の入った籠を置くラトの姿が見える。
「でもその分気分がすっきりするだろ?」
笑いながら近づいてきたラトが、シルエの隣に立って泉の中を覗き込んだ。
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