DEAREST -another story-
第2章 In the forest:幸せに潜む影
人里離れた森の中、ひっそりと佇む小さな木の小屋が、木々に隠れて人目を忍ぶように立っていた。
ここは国境を越えた先、旅人すら足を踏み入れない獣が闊歩する場所である。
人に追われ、国に追われた二人が生きるには都合の良い場所だった。
「ただいまー!」
静かな森にそぐわない、元気の良い青年の声が響く。
木々の合間を縫って姿を現した彼の手には、丈夫な蔓で作られた細かい網目の袋がぶら下がっていた。袋は時折僅かに蠢き、持ち主に振動を伝える。
それを嬉しそうに横目で見ていると、小屋の扉が静かに開き、中から美しい女が出てきた。
彼女の手には、木の籠が抱えられている。
「お帰り、ラト。また泉に行っていたのか?」
「ただいま、シルエ!見てくれよ、今日も大漁だ!」
嬉しそうに網の袋を掲げると、再びもこもことそれが動いた。
たまに網目からヒレが飛び出ていることから、中身は数匹の魚のようだ。
「ホントに好きだな。今日も魚でいいのか?」
どうやら釣りが気に入ったらしい彼は、ここ数日ずっと泉で魚を釣り上げてくる。おかげで最近の夕飯はずっと魚続きだ。流石のシルエも調理法に困り始めていた。一応彼女も、前日とメニューが重ならないように考えているのだ。
困ったように笑うシルエに、ラトが今更気づいたかのようにあっと声を上げる。
「しまった…そうだった、今日は止めようと思ってたんだ。」
流石に本人も夕飯のことを思い出したらしい。
釣ることは好きだが、彼も同じ食材にだんだん飽き始めていたのだろう。
好奇心旺盛な青年はもう充分大人といえる歳のはずなのに、時折こうやって少年のようなことをやるから、シルエは面白くて仕方なかった。
「ふふ…まぁ、釣ってきたものは仕方ない。大事な命だ、感謝して頂こう。」
くすくすと笑いながら袋を受け取ったシルエは、自分の持っていた空の籠の上に乗せると、再び小屋の中に消えた。
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