DEAREST
DEAREST
完結
発行者:穂積
価格:章別決済
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ジャンル:恋愛
シリーズ:DEAREST

公開開始日:2011/06/06
最終更新日:---

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DEAREST 第3章 MONDAY
言葉が出てこない。“そんなこと”考えもしなかった。
呆然と自分を見つめるラトに女は大きく息を吐くと、彼から視線を外し冷たい石の壁に背を預けて続けた。

「前に似たようなことを聞かれ、同じ事を聞いたことがある。そいつは私にこう言った。」

知能を持った人間と、本能しか持たぬ動物を比べること自体が間違っている、と。

「全く無知な答えだ。人間の知能が、どれ程のものだと言うんだ…何より愚かなのは命の持つ意思に気付いていない。」

人間が吸血族を毛嫌いするように、吸血族も自分勝手な人間を嫌悪していた。
女はそんな中で、然程強い感情は持っていなかったが、彼女が唯一“ヒト”を愚かだと思う理由がソレだった。

「…お前、名は?」

初めて触れた考え方に自分の、否、“ヒト”の高慢さを思い知らされ、茫然と自分を見つめるラトに苦笑しつつシルエは尋ねた。

暖かく、澄んだ声だった。

「…ラト。」
「いい名だ。…私はシルエ。」
「………シルエ…。」

ラトが静かに繰り返すのをシルエは微笑を浮かべて見つめる。
シルエにはラトの心が手に取るように分かった。



この青年は傷ついている。今まで自分の信じてきたものを覆されて。
自分たちは本当は汚い生き物なのかと、不安を抱きながら。

「ラト…確かにヒトは私たちと同じように他の命を奪う。でもそれは世界の中では当たり前のことだ。」

そう、それはこの世界で生きている命なら皆知っていること。
他の命を貰って生きる命ならば、知っていて当たり前のこと。
ヒトも吸血族もこの世界の殆どの命は何かを犠牲にして生きている。

「…気付いてないのは…人間だけ…か。」

ラトの呟きにシルエは苦笑を零した。
気付かないのはその心の弱さ故。弱い心では他の命の重さに耐え切れない故にそれから目を逸らすのか、人間ではないシルエには解らない。
多くの吸血族はそれ故、人間に嫌悪を抱くのだけれども。寧ろそんな人間だからこそシルエは嫌いになれなかった。

それは単なる憐れみに過ぎないと解っていても…。



再び沈黙が二人を包む、もう朝がそこまで来ていた。
シルエは静かに月を見上げ、薄闇に紛れるようにラトが独房を離れる。


その日ラトは朝食も食べず、ずっと部屋に閉じこもっていた。
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