DEAREST
DEAREST
完結
発行者:穂積
価格:章別決済
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ジャンル:恋愛
シリーズ:DEAREST

公開開始日:2011/06/06
最終更新日:---

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DEAREST 第2章 SANDAY
夜。教会で生活する全ての人間が眠りにつき、建物自体も眠ったように静まりかえった頃、講堂を横切る黒い影が一つ、闇の中にするりと動く。
その影は教会の最奥、普段は誰も近づかない、否、近づけない“独房”へと消えた。



ピトーン…ピトーン……


天井からしたたり落ちる水滴が固く冷たい石の床を叩き、暗い室内に高くか細い水音を響かせている。

静寂の闇に包まれたこの空間で、女は唯ひたすら己の死を見つめていた。


今朝、というよりまだ日も昇らぬ夜明け前。
吸血族の長の娘である彼女は奇妙なうめき声に目を覚ました。
不審に思い兄弟達の眠る隣室へ向かうと、案の定末っ子のトマが寝苦しそうにうなされているのが見えた。
様子がおかしかったのですぐに別室に移し診たところ、どうも人里からきた病にかかっているらしい。
この吸血族の村に人間のかかる病の薬などあるはずもなく手の施しようが無かった。
しかし、まだ幼いトマは自分の治癒力だけでは悪化し死んでしまうだろう。吸血族とはいえ、幼子は人間となんら変わらない。
大事な弟を救うため、少しだけ人間の薬師の知識を持つ彼女は二人の弟を連れて、薬を手に入れるために人間の町まで下りてきたのだ。

果たして目当ての薬は手に入れた。手に入れたのだが、その後がいけなかった。
連れてきた弟の一人が、運悪く衛兵にぶつかり人外の証である紫の瞳を見られてしまったのだ。彼女は二人を逃がすために、囮になって市のど真ん中を走り抜けた。

今頃は二人がトマに薬を与えているはずだ。
トマは元気になっただろうか…。

彼女の頭に弟たちの明るい笑顔が浮かんで消えた。





カチャン…





静寂を破るように金属のぶつかるような音が小さく響く。
シルエは瞬時に冷たい鉄の扉の向こうに佇む人の気配に気付いた。

看守とは違う、もっと澄んだ気配…

「…誰だ?」
「…お前…あのときの女…」

暗い独房に澄んだテノールの声が響く。
好奇心の固まり、もといラトであった。
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