DEAREST
第10章 EPILOGUE
「ラト、もうすぐ夜明けだ。」
彼らは、今、街から遠く離れた丘の上にいる。
丘の上には青々と葉を茂らせた大木が根を下ろしていた。
その幹に背を預けながらシルエは愛しい人を己の膝にそっと横たえる。
彼の人の息は既に無い。
しかしシルエは語りかけることを止めようとしなかった。
「…なぁ、ラト。知っているか?」
見下ろした彼の顔は、どこか満足そうに微笑んでいる。
「…私たち吸血族は、誰も日の出を見たことがないんだ。」
そっと愛しむように髪を梳きながら、ラトを見つめるシルエの表情は穏やかだった。
「私たちは闇の住人。朝の光を浴びると命を失う。だから誰一人として見ることはできなかった」
シルエも朝日を知らない。
知っているのは昼の焼き付けるような太陽の光と、哀れむような月の光だけ。
だがいつか見てみたいと思っていた。
遠い遠い空の果て。
僅かにかすんだ地平線に黄金の帯が浮かび上がる。
それはみるみるうちに大きくなり夜の闇を照らしていった。
「あぁ…キレイだな…。」
朝の光が二人を包む。
シルエは柔らかな笑みを浮かべながら、そっと瞳を閉じた。
―――――愛しい人…いつまでも二人で―――――
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