DEAREST
DEAREST
完結
発行者:穂積
価格:章別決済
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ジャンル:恋愛
シリーズ:DEAREST

公開開始日:2011/06/06
最終更新日:---

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DEAREST 第10章 EPILOGUE
――――あの後


どれくらい意識を失っていただろうか。
正気を取り戻したシルエが見たものはあまりに惨い光景だった。


持ち上げた自らの両手は真っ赤に染まり、檻の中は鉄の臭いが充満している。
口の中に残るのは、甘い甘い愛しい人の……そう、血の味。


「ぅ…あっ……あぁあっ」


シルエは絶叫した。
声にならない悲鳴を上げて、魂を、心を吐き出すように全身で。

叫びながら、震えながら、見開いた瞳から流れる大粒の涙を拭うこともせずに必死に辺りを見回した。大事な彼を探すために。

彼の人はすぐに見つかった。
………血まみれで。


「…ラ…ト?」
「…………………ルエ…」
「ラトっっ!!」

僅かに届いた虫の羽音よりもかすかな声。
それでも彼女の耳には届いた。
慌てて擦り寄ったシルエは、そのあまりの光景に彼の前で動きを止める。
ただただ茫然と、ラトの青ざめた頬に両手を這わせた。


いつも温もりを伝えてくれるその頬からは、体温を感じることができない。
すでに浅くなった呼吸は、彼の人に忍び寄る死の影を示していた。
シルエは、真っ赤な首筋の傷を塞ごうとするかのように、両手で必死に傷口を押さえる。
その傷口は、牙の跡どころか、肉が食いちぎられ陥没していた。
もう流れ出る分も残っていないのか、赤いそれは僅かに流れるばかりだ。

「私はっ…何て事を…っ!!」
「…シルエは…悪くな、い……あいつらがっ…」


そこまで言ってラトの声が途切れた。
どうやら話す体力さえ残っていないらしい。
シルエは慌ててラトを制止した。

「もういいっ…もう喋るな!…頼むから、身体に力を入れないでくれっ!」

本当に死んでしまう。

「…シル……エ」
「ダメだっ…話すなっ」
「…………シルエ…」
「ラトっ!!止めろっ」

最後の力を振り絞ってラトが身を起こす。
動いた所為か、その首からは新たな血液が流れ始めた。
シルエは動けない。
ゆっくりと近づいてくるラトの顔を瞬きを忘れたように凝視している。

ラトは己の身体から零れ落ちていく命を感じながらふわりと微笑んだ。
それは今まで誰も見たことがないような、人が一生に一度だけ浮かべられる、そんな笑顔だった。
固まったままのシルエの唇に、ふわりと冷たいそれが重なる。




シルエの頬を新たな涙が濡らした。
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