DEAREST
DEAREST
完結
発行者:穂積
価格:章別決済
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ジャンル:恋愛
シリーズ:DEAREST

公開開始日:2011/06/06
最終更新日:---

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DEAREST 第8章 SATURDAY
その姿を茫然と見つめていたシルエは小さな溜め息に我に返る。
冷たい石の床に手を付き身を起こす青年にのろのろと近づいた。

「……ラト…ラト………すまない。」

初めて檻越しでないラトの身体に触れようとして止める。
中途半端に持ち上げた手を膝に戻して固く握りしめながら呟いた。

「…私は…何てことを…」

弱々しく零れるように届いた言葉に、ラトが彼女を見つめた。その手は僅かに震えている。後悔の色で一杯の瞳は、僅かに揺れていた。


あの時、自分がすぐに追い返していれば、
乞われるままに、話したりしなければ。
幾つもの後悔の言葉がシルエの頭に浮かぶ。

「何でシルエが謝る?」

後悔の海に沈んでいたシルエの意識を救ったのは、そんなラトの声だ。
弾かれたように顔を上げると、彼は僅かにその眉を寄せ不満げに顔をしかめていた。

「全部俺がやったことだ。シルエに会いに来たのも、シルエと話しがしたいと思ったのも。」
「…でも私があんな話しをしなければ、ラトは再びここへ来ることはなかった…私の所為だ。」

今にも泣き出さんばかりのシルエの表情に、ラトは小さく笑みを浮かべた。
そんな彼に気付いたシルエは訝しむように彼を見つめる。
ラトは肩の力を抜くように大きく息を吐き出すと、その背を石の壁に預けた。

「俺シルエのそういう顔初めて見たなぁ。」

いきなり何を言い出すのかと首を捻るシルエに構わずラトは続ける。

「だって、俺が知ってるシルエはいつも微笑浮かべて、一段高いところから俺のこと見てる感じだった。まるで俺がガキみてぇにさ。」

肩を竦めておどけてみせる目の前の青年にシルエは目を瞬かせた。
あまりに場違いな言葉に唖然として、次いで小さく苦笑を浮かべる。
どうやら彼は、自分を慰めようとしてくれているらしい。

「…当たり前だ。私の方がずっと年上だからな。」

少し目元を赤くしたシルエが、軽口に乗るようにおどけてみせた。
更に自分が百を超える年月を生きてきたことを話すと、目の前の青年はこれ以上ないほど目を見開く。
そんなラトを見つめるシルエの表情は、先ほどまでの暗い陰りに代わり、温かな笑みが浮かんでいた。


冷たく暗い檻の中、二人のいる場所だけが光に満ち、そして時を刻んでいた。
暖かく、日溜まりのような時を。
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