DEAREST
第6章 THURSDAY
「なんて顔してるんだ…」
苦笑を浮かべながらシルエは言う。
もちろん目の前の若者、ラトに向けてだ。
未だ雪は振り続けていたが、月の光を隠していた雪雲は僅かに薄まり、独房の中には少しだけ柔らかな光が小さな窓から差し込んでいた。
長く生きてきた彼女から見ても結構な容姿の持ち主である青年の顔は、この薄暗さの中でさえ目の下のクマが分かる程、疲労の色を見せている。
心労、なんだろう。悩むのが苦手なのかもしれない。
シルエはその理由が解りすぎるほど解ってしまい苦笑するしかなかった。
やはりこの純粋な若者は、人間の弱さを受け入れきれないでいるようだ。
「…全部お前の所為だ…」
小さく消え入るような声がシルエの耳に届く。
彼女にはその声が、まるで助けを求めているように聞こえた。
寒さにきしむ身体を叱咤して、シルエはラト傍まで身を寄せた。
冷たい鉄の棒が幾本も連なる檻越しに、そっと宥めるかのように。
「…そうだな…私の所為だ。」
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