■彼女ノ啼キ恋■
第1章 夏と呼ぶにはまだ早いはずの4月。
「名前は」
煙草をくわえたままアクセルを踏んだ夏目が言った。
「椎木」
「フルネーム」
女子高生は短く「椎木 清花(シイキ サヤカ)」と答えた。
夏目も椎木もそれ以降特に口を開くことはなかった。
「夏目さんは」
「馨」
「馨さんは何故来てくれたの?」
未だ涙の余韻で赤い目を気にしながら椎木が尋ねた。
夏目はその問いに答えを返すことはしないまま、椎木の通う学校へ着いた。
「ありがとう。」
校門に横付けした夏目の車から降り荷物を自分で下ろそうとする椎木を制止し夏目が荷物を下ろした。
「こんな量の荷物、そんな細い腕で持てなかったんだろ」
だから泣いてしまったんだろう、と副音声が椎木の耳に届いた。
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