Love Story~斉藤一
第7章 「彼女の理由」
殺人があった場所に流れている川を、1里(4キロ)ほどさかのぼった場所は、人気がなくひっそり静まりかえっていた。
遠くに農家が2軒ほど見えるが、それ以外は全くの野原だ。暑かった夏の日差しをいっぱいに浴びた草木が、秋になり色あせて地面に頭を垂れ始めていた。もう少し時が経てば、少し低い川縁に建つその掘っ立て小屋を覆い隠すものはなくなってしまうだろう。今だけは隠れ潜むには絶好の場所だ。
「ゼッタイに許せない・・・。」その小屋の中では、返り血を浴びた衣服を洗っている玲奈の姿があった。暗いろうそくに照らされた彼女の顔は、昨晩、男に叩かれたせいで、頬が赤くなっていた。玲奈は衣服を洗い終わると、別の桶に入ったぬるま湯で、体を拭き始めた。
「こんな事は慣れているはずじゃないの・・。何を今更・・。こんな汚い体なんて、どうなろうと・・。」玲奈は汚された体をきれいにしようと、何回も何回も布で拭った。白い西洋風のバスローブを身にまとい、クリーム色の髪を掻き上げると、木製の桶を持ちあげた。川に水をくみに行こうと、引き戸を開いたその時だった。そこに斉藤が立っていた。驚きのあまり真後ろに倒れて、尻餅をついてしまった。
「誰!?」そこにいたのはあのときの男だ・・・。直感でそうわかった玲奈は、この男が何をしに来たのか想像を巡らせた・・・。私を抱きにきたのか?
「あなたは・・・・。」
「失礼。聞きたいことがある。」齋藤はそう言うと、玲奈は勢いよく立ち上がって齋藤に背を向けた。
「どうせ、そういうことをした女だから、やらせてもらえると思ってきたの?」
「俺のことを知っているような素振りだな。どこかで会ったか?」齋藤はぶしつけにもそう尋ねた。知っているとしたら昨晩のあの時しかない。そう言いたげだった。
「し・・・知らない。何のよう?」玲奈はおもむろに桶を持って、齋藤の脇をすり抜け川に向かった。齋藤は静かに彼女の後を追い、その背中に声をかけた。
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