サイド イフェクツ-薬の鎖-
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発行者:てきーら
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ジャンル:ノンフィクション

公開開始日:2011/04/25
最終更新日:2012/09/23 14:28

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サイド イフェクツ-薬の鎖- 第10章 DATA10 赤面、そして沈鬱―元モデルの告白―
「ぅん。けっこう週末とかよくみんなで遊びに行ってるよん」
マネージャーに勧められて苺夏は、仕方なくスティッククリームブリュレを口いっぱいに噛みしめた。たしかに普段であれば頬っぺたが落ちてしまうくらいの贅沢なスイーツであったかもしれないが、彼女という“自己”をいま不気味に内面から支配している暗澹たるナニモノかに掣肘{せいちゅう}されているようで、喉は通ったが何となく、コンビニで買うデザートみたいなありきたりの食感にしか感じられらなかった。
一人取り残されてしまうような場面はいつ誰にだってある事だ。気持ちが冴えず沈んでいる時ほど、人の親切や喜ばしい事物を快く受け入れられず、とかく、厭わしく思ってしまうものである。このモデルの女も、そんな人生の“惰性”の法則にもれる事なく、しごく憂鬱な気分へと心の天秤が傾いてしまったがために、マネージャーとカメラマンが温かく接してくれようとしていたにもかかわらず、冬の外気の下に置かれたスープのように一人ぽつんと孤立から抜け出せなかったのであろう。
撮影は日ノ岡から言われた通り、翌週の水曜日に行われた。午前中だけの予定であったが、またしても彼女は顔を紅潮させてしまう。そこで急遽、午後においても日ノ岡はストロボに眼を遣らなければならず、カメラマンはやむを得ずモデルに対し一部ポーズのカットを命じて本撮影に入った。それでも漸{ようや}くなんとか、ファッション雑誌に飾られる自身のデビュー作品となるシーンを撮り終える事が出来たが、それは彼女にとって、鉛に始終アタマを抑えつけられているような苦痛の時間でしかなかったのかもしれない。“顔が朱{あか}らんでしまい幾度も撮影の進行を妨げてしまった”という悲痛すぎる“現実”は、以後、彼女の脳裡から離れる事はなかった。
“また起こるかもしれない、また起こったらどうしよう……”
一瞬一瞬の場面が重要視される世界に入った事でなおさらなのかもしれない。
“漠然とした言いようのない不安”
ってやつが、やがては“強迫観念”という名の鎖に変わり、数時間後などきわめて近い未来を無意識のうちに縛ってしまうことに対し、苺夏は為す術を知らず、ただただ今はもがき続けるしかなかったのである。
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