サイド イフェクツ-薬の鎖-
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発行者:てきーら
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ジャンル:ノンフィクション

公開開始日:2011/04/25
最終更新日:2012/09/23 14:28

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サイド イフェクツ-薬の鎖- 第10章 DATA10 赤面、そして沈鬱―元モデルの告白―
もしかしたらもう今日きりで私のモデルとしての仕事はないのかもしれない、そんなふうに最悪な現実のシナリオを頭に思い描いてしまっていた苺夏であったが、カメラマンに撮影延期の話を告げられると、表情{かお}にはあらわさなかったものの、心中ではホッと安堵の吐息を洩らしたのであった。
「こんちわ。やっほー彰ちゃん、これ新宿のデパ地下で買ってきた今人気のスイーツなんだけど食べなよ」
「おぉ黒ちゃん。やっぱ来るの早いな。なんだそりゃ。ブリュレかい?」
後ろを振り返ると、事務所マネージャーの黒川が、愛嬌たっぷりの笑みを湛えて、二人のいるところへはしゃぐように駆け寄ってきた。しかし、朝スタジオを出てゆく前には輝いているように感じられた金髪のポニーテール姿が、いま何気なくふとちらりと見遣ると、どことなくそれは疲れているように見て取れた。
「おぉ? さすが熟練カメラマンさんも、甘いモノには目がないって感じ?」
「いやいや、冴ちゃんには敵わないよ」 「このブリュレはね、生地がところどころ崩れてて、焼色も薄めになってんの。で何よりとってもサクサクしててさ……」
「へええ。もしかして、ちまたで話題の注文殺到してるっていうあのヤツ?」
「そうだよん」
冗談も混じえながら彼らが喋々と親しそうに会話しているさまを端から眺めていると、かえって苺夏は負の重力に導かれ、光さえも届かない暗い深海に沈んでゆくような気分に陥ってしまった。感情のない飾り物の人形のようにただ虚しく二人のほうを見つめていると、
「あっ、ほら苺夏ちゃんも食べなよ。焼きたてだから美味しいよ」
「おぉ、そうだ。平幡さんもこっちおいで。今日の事は別に気にする事ないからさ」
女マネージャーは、例のとろけるような人懐こい微笑みを瞬時にまた作り新米モデルにも勧めると、苺夏は遠慮がちなな表情{かお}で、首をちょっとだけ縦にぎこちなく振った。
「彰ちゃん。ねぇ聞いて、聞いて。この前の日曜日ね、ウチの事務所の阿河さんと原井君と私の三人でガーデンプレイスで食べ歩きした後ボウリング行ったんだけどさー、あたし三ゲームでストライク八回も出しちゃったぁ」
「マジで?八回はすごいなぁ。そういや黒ちゃん、あの二人と仲いいんだったっけ。」
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