サイド イフェクツ-薬の鎖-
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発行者:てきーら
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ジャンル:ノンフィクション

公開開始日:2011/04/25
最終更新日:2012/09/23 14:28

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サイド イフェクツ-薬の鎖- 第10章 DATA10 赤面、そして沈鬱―元モデルの告白―
「少しだけでも、ゆっくりでいいですから話していただけますか」
女のほうから向き直ると播野は、丁重な物腰柔らかい例の紳士的な口調でお願いするように言った。ぱっちりと開いたその円{つぶ}らな瞳孔{ひとみ}は、よく見ると、若人らしい輝きがなんとなく失われてしまっているのが、すぐ見て取れた。例えるならば、色褪せた宝石・・・そんなところであろうか。
(見知らぬ人の前ではかなり抵抗があるようだな。これはやはり………)
「ほんの少しだけでも構いませんから……お話していただけませんか」
播野は、さきほどよりもさらにゆっくりと、己を抑えて譲歩するように話を繋いだ。患者の前ではいやがおうでも“誠実で穏和な医師”に扮している播野だが、さすがに程度ってやつがあるようである。不覚にも苦たらしい面構えに変わったのが自身でもわかり、小さな咳ばらいをひとつ左手の握りこぶしの上で洩らした。視線を床のほうに遣って人形のようにじっとしている若い女に対し、何とか重い口を開いて貰わなければと思い再度試みた。気がつけば、未だあどけなさの多分に残る彼女のカオ全体は火を噴いているように真紅色じゃないか。
「………あっ、……はい………なんか人とうまく……上手に、……うまく喋れなくなってしまったんです」
女はようやく、途中何度も口を滞らせながらも、いま現在において日常生活に支障をきたしている事柄の一つを医師に伝える事が出来た。
「人と普通に会話する事が出来なくなってしまった、という事ですね。なるほど。……しかし、私が察する限りでは貴方それだけではなさそうに見えますけれど、あなたご自身でもお気づきかとは思われますが……」
「………え、…ええ。わたし、人前で…いつの間にか…ものすごくあがっちゃうようになってしまって……それで今も、………わたしの顔、…真っ赤になってると思うんですけど………」
女が途切れ途切れで話している最中、播野は狐のような怪訝と憂色の雑じった眼つきで患者の表情{かお}をさりげなく見据えていたが、無理にでも話そうとすればするほど、換言すれば時間が経過するほど、若い女の声が震えてきたのがわかった。極度の不安や恐怖に襲われている様子が瞭然と伝わってきたのである。
「そうですねぇ。貴方のおっしゃるとおり、たしかに通常の人と比べて話をすることにかなり抵抗がおありのようですねぇ……」
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