サイド イフェクツ-薬の鎖-
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発行者:てきーら
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ジャンル:ノンフィクション

公開開始日:2011/04/25
最終更新日:2012/09/23 14:28

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サイド イフェクツ-薬の鎖- 第10章 DATA10 赤面、そして沈鬱―元モデルの告白―
好奇心のアンテナを張り巡らせて医師は、眼の前に淑{しと}やかに腰掛けた彼女がどんな職業に就いている人なのか、又は今までどんな職業に就いていた人なのか何となく頭の中で見当をつけようとした。そこら辺の街中を歩いている女よりも、睫毛のところは小洒落れた感じになっていて、何より人形のように飛び切りぱっちりとした目許が特徴的なのであった。
「はい。大変お待たせいたしました。…今日はどうされました?」
滅多に来ないであろう貴重なクライエントに恵まれて、彼は心の踊りを隠さなければならないくらいになり、妙な胸の高鳴りが少しずつ涌いてくるのが自身でも感じられた。ドクターとしての矜持もあるかもしれないが、常日頃から殆{ほとん}どと言っていいほど、“医師”という重苦しい『仮面』を被っている播野。心の奥底に潜む“本当の自分”という存在を世間体を気にして表に出せないでいた。この時も始終『マスク』は脱げずにいたが、腹の内では素のわれがかわいい娘ではないかとニヤついていた。不覚にも表情{かお}は、そんな不埒な念いが投影してか、子供のように赤らんできたように感じた。汗が滲んだり滴り落ちたりしていないにもかかわらず、彼は額や頬の辺りを少しばかり拭う仕草をした。播野は何か自身の胸の内に起こっているざわめきを悟られたくないと、いつものように落ち着き払った崇高そうな表情{かお}を懸命に作り、現在{いま}どのように病んでいるのかについてゆったりとした口振りで切り出した。
「………えっ、ええ…………」
いつのまにかスモーク色したサングラスを外していた若い女は顔をほんの少しあげて何か言おうとしたが、すぐにぱっちりとした幼さの残る瞳は医師から離れて、透き通った柔らかそうな肌はちょっとずつ鮮やかなピンクに染まっていった。人前で話をするのは恥ずかしいという感情だけが患者を支配しているようであった。そのくせどういうわけか、退屈そうに左脚を右膝の上に組みはじめた。図々しい奴、とはこの時ばかりは思わなかったが、そのかわりに、
(だいぶ緊張しまっているようだな、こりゃ……)
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