サイド イフェクツ-薬の鎖-
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発行者:てきーら
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ジャンル:ノンフィクション

公開開始日:2011/04/25
最終更新日:2012/09/23 14:28

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サイド イフェクツ-薬の鎖- 第12章 DATA12 困惑―元モデルの苦悩―
 海水のように揺らぐ胸の内をどうにかおさえようとしながら、自問自答をしてみたが、ますます夜の深い森に迷い込んでゆくがごとく、暗紫色のベールが平常心を晦{くら}ましてゆくだけであった。何の気無しに机の片隅を覗き込むと、薬品みたいに小さな赤い蓋のガラス瓶が置いてある。それは、播野が長年職務上“癒し”のために密かに愛用しているアロマオイル“ダヴァナ”であった。彼自身だけではなく、さつばつとも感じられる診察室全体をほんのり甘いフルーティーな香りが包んでくれるのである。
 (さっきの女の子も気づいただろうか………)
 (この特有の癒しの匂いを…………)
 彼は、あの若い女のクライアントの姿を、吸い込まれるようにあわく優しいこのダヴァナの薫りと重ね合わせてみた。すると、どうだろう。先の診察に対する悔いや痼{しこ}りの念は、あたかもフィルターを通して泥砂を含んだ汚水が濾過{ろか}されていくようにしだいに消え失せていった。
 (……まっ、俺が処方した薬で少しは楽になるだろう………)
 思いのほかリラックスしてきたのか、生温い両手を組んで頭上の後方へ腕ごと緩徐に反らし、大きく深呼吸しながら遠回りした一つの平易な結論をようやく心中で導き出した。それから、何か思い立ったように重くしていた腰を回転椅子からさっと素早く離し、播野は受付の方へそそくさと出ていった。
 「今さっきの患者さん、若くてキレイでしたね」
 コピー機の前で、最寄りの提携している薬局から届いたファックスの資料を悉{つぶさ}に確認していると、背後から受付を任されている幾分蒼白い顔して女のわりにはすらっとした背の高い野尻が近寄ってきて、機嫌気褄{きづま}を取るような物言いでニッコリと眼を細めながら医師に声を掛けてきた。その奥では、むくれてぽっちゃりとした感じの顔の同じく受付を任されている知命もそう遠くはない中年女、菅谷が黙々と何やらパソコンに向かって患者の予約一覧らしきファイルを眼で追っていた。
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