サイド イフェクツ-薬の鎖-
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発行者:てきーら
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ジャンル:ノンフィクション

公開開始日:2011/04/25
最終更新日:2012/09/23 14:28

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サイド イフェクツ-薬の鎖- 第12章 DATA12 困惑―元モデルの苦悩―
 「また一定期間毎に症状の回復の程度等を私の方でも把握していかなければなりませんので、皆さんには恐縮なんですがお時間を割いていただいてでも通院してもらっているんですよ」
 女は相変わらず憂えと怯えの入り雑じった表情で焦れったく訊{き}き返してきたが、医師は通院の必要性を沈着かつ鄭重な口調で穏やかに訴えた。
 「………はぃ。………わかりました………」
 「……とりあえず………また来ます………」
 「では、来週二十八日の午前十一時からという事でよろしいですか?」
 「…………はぃ、…………ぇえ」
 (もう少し断定した言い方ができないのかな、この女は)
 (元来の性格も手伝って、意志薄弱に拍車が掛かっているようだ)
 優柔不断な患者の返事に、本当に次回もまたこの部屋を訪れてくれるのか、不安の靄が播野の頭を掠めてきたが、
 「大丈夫ですか?」
 「はい。それでは次回は三月二十八日の午前十一時にこちらへまたお越し下さいね」
 「………はぃ」
 「あまり人目を気になさらないで下さいね」
 「お大事にどうぞ」
患者の表情がさほど変化しないので了してくれたと見做し、親切丁寧な言葉遣いでいつもの決まりの挨拶をした。
 「………あ、………ありがとうございました」
 女らしく畏まるように深く額を下に向けると、患者は絶えず哀訴するような顔貌{かお}をこちらに浮かべながらゆっくりと扉を閉めて待合室へと去って行った。

 「……気にしないほうが良いといっても、気にしなくなるほうがおかしいか………」
 若い女が診察室から立ち去った後、播野はにわかに途方に暮れたような表情に変わり虚脱感にも囚われ始めた。そして、皮肉雑じりにぼそっと右のようなことをむなしく呟いた。初めに眼にした滅多に訪れないであろう艶やかで初々しいあの女の姿は、もう彼の脳裏の片隅からとっくに消え失せていた。
 仕事に未練があるからなのか、それとも、ほかに理由{わけ}があってのことからなのかはわからないが、外見は元モデルらしく華やかにブランド物の衣服で身を纏い、慎ましそうにこの椅子に腰を下ろした、まだ高校生くらいのようないじらしい容貌{かお}をした患者。しかし、それはもう蜃気楼でしかなかったのだろうか。第一印象と現実とのギャップの悲哀を暸{あき}らかに感じてしまった自分が、遣る瀬なく思えて仕方がなくなってきた。
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