サイド イフェクツ-薬の鎖-
第12章 DATA12 困惑―元モデルの苦悩―
(人の疝気を頭痛に病む、とは俺の事をいうのかもしれんな)
(…………いや、俺はただ患者の過去が知りたいだけなのだろうか……)
俗耳には容易に語れぬ複雑な心境のまま、播野は漸{ようや}く[各精神疾患に対する処方]のファイルを画面に開いた。
(対人恐怖症の傾向が強いので、本来ならば“森田療法”なりでじっくり治療を進めていきたいところだが、社会恐怖の症状も出ているので、とりあえずは従来通りベンゾジアゼピン系の薬を服用してもらうとするか)
医師は注意深い眼で、慎重に患者に対し処方すべき薬物を精選し始めた。
(症状の程度は決して軽くはないし、……短時間作用型のデパスと中時間作用型のセラニン、……これで良いだろう)
(……………?)
「…あの、どうかいたしましたか」
何となく顔の辺りに暗幕に包み込まれてくるような違和感を感じてきたので後方に眼を遣ると、幼い顔貌{かお}をした女患者が幾分赤らみを含んだ頬にぎょろりと惑乱した視線を不気味に投げ掛けていたのであった。
「…………ぃ、……いえ別に、……………何でも、……ありません」
ちょうど子のような年頃にあたる若い娘は、手指をもどかしく弄りながら俄然、顔を伏せて申し訳なさそうに答えた。
(どうしたっていうんだ、いったい………)
(………まさか?)
(…………それはないだろう)
もしや、本心の一部を悟られてしまったのではないかという詰まらぬ疑念に駆られそうになったが、
「はい。そうしましたら平幡さんの場合はですね……」
「赤面とともに対人恐怖も日常生活を送るに際して支障を来たしているようですから、こちらも含めまして、まぁ、末永く焦らずに治療していきましょう」
「今日は二種類のお薬を出しておきますから、朝と晩の二回、忘れずに一錠ずつ飲んで下さいね」
「………いいですか?」
「………は、………はい。……わかりました………」
「それで、次回の診察なんですが、来週二十八日の午前十一時くらいにもう一度こちらに来てもらう事はできますか」
「………もぅ一度、………ですか?」
「はい、そうです」
「たった一度きりでは症状の完全な回復はほぼ困難ですからね」
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