サイド イフェクツ-薬の鎖-
第12章 DATA12 困惑―元モデルの苦悩―
(たしかに、モデルや舞台に立つ役者が頻繁に紅潮してしまったらそれは冗談では済まされないね………)
(モデルになろうとした経緯と、モデルになる前において顔に赤面が表れた事があるかまで、…………ざっと聞いて見るとするか…………)
(……………やれやれ)
腕組みを崩し、一時気を紛らすように右手の人差し指でこめかみの辺りを軽く擦る仕草をしてから、
「モデルをやられていたとおっしゃいましたが、モデルになられる前は失礼ですが、ちなみに何をなされていたのですか」
播野は、ふと涌き起こってくるつまらない“我”を抑えるため一呼吸置いてから、目の前で力無く座り込んでいる若い女の患者に対し、柔らかい語調で訊{き}いてみた。
「…………モデルを………する前ですか………?」
「…………何でまた、………そんなこと……まで聞くんですか…………?」
「………えっ」
「あっ、少々、唐突すぎましたかね」
「……それはですね、あなたがどうして今のような状態になってしまったのか、といういきさつも知りたいんですワ」
と、精神科医の仮面は剥がさずに伝えたものの、播野は呆れもしていた。
絶えず歯痒い喋り方をしながら、あまつさえ自らの問い掛けに対し抗拒するかような物言いに聞こえたため、面{かお}には表さなかったが、つい、苛立ちの感情さえ瞬時に医師の頭をむらむらと支配してきた。何らかの脳内物質の多寡等の影響でココロが冒されている病には多種多様に異ってあるように、精神疾患のため訪れる患者達も人それぞれに生まれ持つ性質が違うのは言うまでもない。
だが、この“生まれながらにして”というのが症状とも絡んで時に厄介であり、年齢が古くなればなるほど、彼等の診察に対する態度や受け答えにふてぶてしさが感じられてくるのも稀ではないのであった。
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