中年教師放流記
第1章 流されて
少女に従い、森の奥へと入っていくと、次第に小さな集落のようなものが見え始めた。
木で建てられた家が並び、住んでいる人々は申し訳程度に身体を隠すものを身に着けている。
彼らは少女に連れられてきた五郎に興味を示したようで、人々の視線が集まり、五郎はどうにも落ち着かない。
少女が何かを叫ぶと、その集団の中から一人の男が現れた。
動物の皮をなめしたものを腰に巻いたその男は、弓と矢を持って現れた。
男は木を指差す。そこにはロープのようなもので吊るされた的のようなものがあった。
その男が弓を引き、矢を放つ。矢は見事に的に当たる。
回りからおお、と声が上がった。どういう内容かは知らないが、どうやら弓の腕を褒め称えているらしい。
男は五郎に弓と、三本の矢を渡す。同じようにやってみせろ、ということだろうか。
幸いにも弓道部の顧問をやっていた五郎は自分の得意分野が回ってきたことに、いるかどうかも分からない神に感謝を捧げた。
弓の状態を見る。あまり状態は良くないが、十分使えるだろうと判断した。
五郎は弓に矢を番え、放つ。一本目が的の中心を貫いた。
回りが驚いたように声をなくす。どういう反応なのかよく分からなかった五郎は残りの矢も同じように放った。
残り二本の矢は一本目に放った矢の左右を貫いた。
人々がざわざわと何かを話し合っているのを見て、五郎はやりすぎたかと思った。
ここに案内してくれていた少女が突然五郎に抱きついてくる。
慌てて受け止めると、少女は何か嬉しそうに声を上げていた。
その様子から見ると、間違ったことはしていないようだ。
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