蒼い月、蒼い空
第1章 プロローグ
〈笑い皺〉
「飲むか?…コーヒー」
知らない男が声をかける。ぼくは返事も出来ずに彼の顔をじっと見る。
その様子に黙って男は用意したコーヒーを差し出した。
大きめのマグに入った、湯気の立ち上るもの。
まだ体が鉛みたいだ。
持たされたマグカップが重く感じる。
ほとんど無意識に口をつける。
「アチ…!」
「悪い、悪い。熱すぎたか? ミルクでもいれてみるか…」
男は独り言みたいに言うと小さな冷蔵庫の方へ行ってしまう。
(ここ、どこなんだろう…?)
座ってられなくて、横になる。
「…飲むか?」
遠慮がちに差し出されたそれを よいしょと起き上がり飲む。
「 おいし… 」
「そうか」
ぼくの一言に、ほっとした笑みを浮かべる。
(あ、笑いじわ…)
色の黒いごつい男の瞳がくしゃっとしわの中に見えなくなった。
短く刈り上げた髪と肌の色は、屋外労働者の様だ。
後ろを向いた背中は がっしりとして、鍛え上げられた筋肉を纏(まと)っている。
男が行ってしまうと、ぼくは、ミルクコーヒーをすすりながら 部屋を見渡す。
八畳程の粗末な丸木小屋…。
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