蒼い月、蒼い空
第1章 プロローグ
〈君の安らぎになりたい〉
小栗侑馬は二ヶ月の長期休暇を終え、久方ぶりの出勤を果たす所である。
ここは 侑馬の住む、古アパート。
夏が始まるまで予想だにしなかった同居人が 今は一緒だ。
同居人は高校生。
男同士、はた目には何の問題もなさそうに見える。
が、実はこの二人、恋人同士なのだ。
しかも まだ恋が成就したばかりの いわゆる“ホヤホヤ”。
恋人の名は 椎橋 翔。
カケル と読む。
当年とって16才。
まだ高校に上がって間もないのに、彼にはいろいろな事があった。
今 正に、侑馬のタイを結ぼうと四苦八苦してる、目の前のボーヤがそうだ。
「…うー」
凌ぎやすくなったとは言うものの、九月はまだ暑い。
翔は熱中し過ぎて 額に汗を浮かせている。
侑馬は
『もういいぞ。自分でやろうか』…と、言いたいのを必死にこらえている。
何故なら、真剣な翔の顔を間近で見れる。
可愛くて仕方ない。
思わず、
集中した時の彼の癖である、尖らせた唇に チョンと触れるだけのキスをする。
「わっ!…ば…、ユーマぁっ!」
慌てる仕草が又、いたずら心を煽る。
驚いて、それでもタイから手を放さないのをいい事に、
今度は深く口づける。
熱い舌を差し入れると、身を硬くして受け入れる。
初々しい…
ようやく手に入れた。
脆く、壊れてしまいそうなこの子を。
頑(かたく)なだった氷の表情を溶かし、今や 彼はこんなにも自分を信頼してくれている。
大切にしたい…。
侑馬は、胸に込み上げる物を抑えながら思った。
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