歴史エッセイ集「今昔玉手箱3(東洋文明編)」
第2章 東方精神の章(仏・密・禅)
○密教伝承
空海には二人の師がいる。一人は
言うまでもなく、真言密教第七祖の
恵果。もう一人は、空海にサンス
クリット語を教えた般若三蔵である。
彼の原名はプラジャニャーと言う。
一切の事物や道理を洞察する深い
叡智という意味で、般若はその
漢名である。
般若は734年、カーピシー国
(現・アフガニスタン・カブール
北東約73ベグラーム)で生まれた。
カーピシー国は、6000メートル
級の山々が連なるヒンズークシ山脈
のすそ野に広がる高原地帯で、標高
は1700メートル。紀元1~2世紀
に、北インドからガンダーラ一帯を
領有していたカニシカ王の夏の都、
つまり避暑地として栄えたところで
ある。カニシカ王は、冬をインド
諸国で過ごし、春はガンダーラ城
(現・パキスタン・ペシャワール)
で過ごしたという。
カニシカ王の在位は、紀元144年
から170年頃と言われている。その
間、第4回仏典結集(けつじゅう)や、
プルシャプラ(ペシャワール)の大塔の
建設を行うなど、仏教を保護し、
クシャーナ朝の最盛期を築きあげた。
インダス川とカブール川にはさまれた
ガンダーラ大平原に、史上最初の仏像
が生み出されたのもこの頃である。
76