歴史エッセイ集「今昔玉手箱3(東洋文明編)」
第2章 東方精神の章(仏・密・禅)
ある時スッドーダナは、わが子
の将来を占わせるために、8人
の占い師を招いた。その中で
最年少のコンダンニャはカピラ城
近くのドーナヴァストトゥ村生ま
れで、占相術に優れていた。彼は
ゴータマが必ずブッダ(仏陀)に
なるだろうと予言した。
ブッダとはサンスクリット語で
「目覚めた者・理解した者」を
意味する。もう少し踏み込むと
「存在の様相とその本質を如実に
知見して人格を完成させた人」と
なる。現在は釈迦の代名詞として
使われているが、当時からブッダ
という概念は存在し、ジャイナ教
でも用いられていた。
ゴータマ以前のブッダとして
6人の名が知られている。ヴィパ
ッシン、シキン、ヴェッサブー、
カクサンダ、コーナーガマナ、
カッサパである。おそらくこの
中にはリグ・ヴェーダ賛歌で
宇宙開闢を瞑想した者、ウパニ
シャドで宇宙原理ブラフマンと
人間の本質アートマンの合一
(梵我一如)を説いた者、ヨーガ
(瑜伽(の真髄を説いた者などの
バラモン僧が含まれているに
違いない。
さて、ブッダになると予言した
コンダンニャだが、ゴータマと共
に苦行を共にした五比丘の一人で
あり、成道してブッダとなった後、
初転法輪を説かれてこれを理解し、
最初の弟子となった人物である。
釈尊はこれを称賛して「アーニャ
(阿若)=よく了解した」という名
を与えた。
父・スッドーダナの心中は
穏やかではない。将来シャカ族
の長となるべき後継者が、山野
を漂泊する苦行僧にでもなられて
は敵わない。ゴータマには可能
な限り快適な生活環境を与え、
心の中にこの世に対する疑問や
憂いが起こらぬよう心がけた。
実際ゴータマの生活は快適
だった。冬と夏と雨季の為の
別荘があり、綺麗なお姉さま
たちに囲まれ、管弦妓楽を楽
しんだという。焚き込める香
は栴檀香。衣服はカーシー
(ベナレス)産の最高級綿織物。
蓮池には白蓮華紅蓮華・青蓮華
が咲いていた。
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