- Garden -
第2章 第二章 ‐ 園 ‐
私に武術を教えてくれた者もそう言っていた。
強さをはき違えぬように、いつなんどきも、それが他を傷つけるばかりのものにならぬように。
例えば正しいことを言うのは強さでも、正論で他を責め入ることがそうでないのと同じ。
何のための力かを、何度も何度も教え込まれた。
「貴女を育てた方はさぞ、素晴らしいお人なのでしょう」
そう言いながら昔を思い出し、今は亡き師の言葉をそっと口にした。
「“剣舞は人のため。剣術は己のため”と昔、私の恩師がよく言っていました」
懐かしい匂いがした。木と土と汗の混じった匂い。
静かな稽古部屋で、一心に剣術を教わったあの頃の匂いだった。
「貴女を見ていると、大切なことを思い出します」
そういうと彼女はそれまでじっと私を見つめていたまっすぐな瞳をそっと細めて、美しい声で言った。
「とても素敵な恩師様に巡り会われたのですね。その心得、おわすれなきよう」
細く白い首が曲がり、絹の糸のように美しい髪が風に吹かれながら肩を滑る。
下げた頭を上げて、藤の君は「では、また」と言うと、書物を細い腕に抱え直し、もう一度深く頭を下げ、去って行った。
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