- Garden -
第1章 第一章 ‐ 風 ‐
「貴女はニ宮の。貴方達、これは彼女が宮家と知っての無礼か」
間違いない。
小さく細身で容姿は少しばかり幼いが、それを包むのは美しさと気品。
「宮だからなんだって?」
「着飾って、踊って、酒を飲ませて、やってることは遊女と同じじゃねぇか。宮家の女どもはよ」
既に出来上がっている男達はけらけらと笑って、嫌がる女をより強く腕の中に引いた。
助けに出ようとした笠冴を柊の手が制した。
「女の価値も分からず、剣を着飾り、ふらふらと舞い、酒に飲まれておいでるそなた達など、遊女にさえ相手にされぬのだろうな。故に、宮の者に手を出しておいでか」
藤の方の黒い瞳が鋭く男達を睨み付けた。
美しい声を発したその口元は優しくほころんでいるが、目は笑っていなかった。
「なっ、言わせておけば!!」
男は赤い顔をより赤くさせ、藤の方に駆け寄った。
さすがにやばい、と柊が足を踏み出すと同時。一瞬の出来事だった。
藤の方が身をかがめ、飛び込んできた男の首筋とひざの裏に一度ずつ軽い小手を入れた。
すると彼女の2倍はあろうその巨体がぐらりと揺れて固い地面に自ら眠るように倒れこんだのだ。
それを見たもう1人の男が彼女に飛びかかろうとすると、それを地面へ押さえつけたのはどこからから湧いて出た黒服の男だった。
藤の方はその男を一瞥して、足を震わせ座り込む女に駆け寄ってそっと抱きしめると、倒れこむ男達に言った。
「宮の女に手を挙げるなら覚悟なさい。世継ぎを生むのは皆、宮家ぞ。」
ぶわっ、と強い強い風が蔵の間をかけていった。
これが皇帝となる色の妻を目指す女。
なんと強く、なんと凛々しく、なんと美しいことか。
「あの、そこの軍部の方。よろしければこの男達を引き取ってくださいませんか」
それが、私と彼女の出会いだった。
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