老人ホームの人妻看護師
第4章 痴漢です!
遠くに太田さんが駆けているのが見えます。どうやら駅に向かっているようです。私もすぐに後を追いかけました。
もう少しというところまで追いついたんですが、私は踏切待ちです。太田さんを呼ぼうにも息があがっちゃって声になりません。
その太田さんは何やら男の人にペコペコと頭を下げています。そして何やら指差されてホームに入って行きました。
踏切があがると、私はすぐにその男の人のところへ駆け寄りました。
まだ声がまともに出ません。
「あの・・・、あの、これ太田さん」
顔を見ると男の人は怒っているようです。太田さん間に合わなかったのかしらなんて思ったんですけど、その怒りは私に向けてのものだったんです。
「君っ、なにしてんの。遅いよ。撮影許可取ってるのわかってんの」
「えっ、いや、私は」
「言い訳はいい。早く来て」
腕を掴まれて、私はホームに連れていかれました。
「あの、台本」
「何言ってんの。今日は台本なんかいい。台詞は無し。とにかく恥ずかしそうに黙ってて。それに許可を待つために最後に残ったシーンじゃないか、台本はもう用無しだよ」
「えっ、えっ」
訳の判らないままホームの一番奥まで連れていかれました。
電車を見ると中に太田さんがいます。まだ声が出ない私はぜーぜー言いながら太田さんに向かって手を振ったんですが、気付いてくれません。
「さっ、早くメガネかけて」
男の人は台本とメガネを撮りあげると、私の顔にメガネをかけました。
「いいね、顔はドアを向けて動かないで。途中で外から撮影してるから」
「あの、あの」
その時に電車が発車するベルが鳴り始めましたんです。
私は後ろ向きのまま、無理やり電車に押し込まれたんです。
茫然としている間にドアが閉まり、電車が発車しちゃいました。
29