虹の橋を渡ったゾウ
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ジャンル:ノンフィクション

公開開始日:2011/03/01
最終更新日:2011/03/01 10:29

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虹の橋を渡ったゾウ 第1章 印度象鎮魂歌(上) 動物処分命令
 福田三郎は上野動物園の園長室で、
空襲警報を聞いていた。彼は沈痛な
表情で、机の上の書類を見ていた。
表紙には「動物園非常処置要綱」と
書かれてあった。昭和16年8月
11日に制定されたこの要綱には、
動物園における危険動物に対する
非常処置がこと細かく記載されて
あった。処置とは即ち、猛獣の銃殺・
毒殺の事である。

 猛獣はその危険度によって、第一種
の熊・ライオン・象・虎などの24
種類から、第四種のカナリア・亀
などに分類されていた。そして処置
の時期について、「第一期の防空下令・
第二期の空襲の時に処置の準備を完了
させ、第三期の空襲による爆撃火災の
危険近接したる時、近接の程度に
応じて第一・第二種動物を順次処置し、
更に危険のおよぶ時は第三種動物も
順次処置す」と定められていた。

 福田はこの時、園長代理という立場
にいた。園長の古賀忠道が応召され、
そのあとをうけた形だった。福田は
1894(明治27)年9月15日、
杉並区高円寺に生まれた。東京農業
大学高等科を卒業し、翌年8月から
上野動物園に勤務していた。以来
20年間、飼育係として動物たちと
過ごしてきた。小太りの温和な人柄
だった。

 東京が空襲されるなど、ありえない
事だった。だがその、ありえない事が
起こったのだ。福田は動物処分の悪夢
を脳裏に描き、慌てて振り払った。
その福田の心配をよそに、日本軍が
占領したアジア・太平洋の広大な地域
からは、動物たちが続々と送り届け
られてきていた。入園者数も順調に
伸び続け、昭和16年度には314万人
に達した。園内を歩いている限り、
戦争前とさして変わらぬ穏やかな光景
だった。
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