アストラルの森2/聖人間工房
第2章 第2章・深層潮流
骨の折れる鈍い音がした。遼介のバット
は男の右手首の骨を砕き、ヘッドの部分
は額をパックリ割っていた。その一撃で
男は脳震盪を起こし、足元がふらついて
立っていられなくなった。
周りを囲んでいた男女は、遼介の思わぬ
反撃に逃げ腰になった。じりじりと
後ずさりしながら、やられた男を助けるか
置き去りにして逃げるか、迷っていた。
倒れた男を見て、遼介は背筋にぞくぞく
するような快感を感じていた。その痺れる
ような快感は、射精の瞬間のように頭の中
を白くスパークさせた。遼介は掌の汗を
拭ってから、2撃目を再び頭蓋骨めがけて
浴びせた。針山とバットのヘッドが、
男の頭にめりこんだ。
男の額と鼻からは、ドロリとした赤黒い
血が流れ出し、口からは白い泡と血が吹き
出して首筋にながれていた。彼は電柱に
下半身をもたれた状態で、意識を失った。
下腹部からは尿が道路に流れ出し、黒い
アメーバーのように広がった。全身は
ヒクッヒクッと断続的に痙攣していた。
そのあまりの出来事に、若い男女は悲鳴
を上げながら、散りじりに駆け去って
いった。
遼介は喉の奥から低い唸り声を上げ
ながら、3撃目を右斜め垂直に振り下
ろした。側頭部が割れ、首の骨が折れ
た。返り血の飛沫が、遼介の顔にかか
った。彼はペッと血の混じった唾を
吐いた。引き抜いたバットの針山には、
赤い肉と髪の毛が付着していた。
「ヒヒヒヒヒッ・・・」
遼介は今まで味わった事のない、勝利者
の快感に酔っていた。引きつった笑い声を
あげながら、4撃5撃6撃と続けざまに
胸・腹・足に叩きつけた。そしてバッティング
のように、頭を目標にして水平に7撃目を
打ち込んだ。男はもはや、心臓も呼吸も停止
していた。彼の体は無残な血まみれの姿と
なって、歩道に転がった。
遼介はふと、さわやかな風を感じた。
モヤモヤとしていた霧が晴れたような、
さわやかな爽快感があった。彼は不意に
バットをコロンと投げ捨て、転がっている
死体に侮蔑の目線を送りながら、軽く額の
汗を拭った。そして自分のショルダーバック
を拾い上げて肩にかけると、何事もなかった
かのような表情で北に向かって歩き始めた。
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