大根と王妃~名残恋の思い人~
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発行者:大雪
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2011/01/31
最終更新日:2018/01/26 22:30

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大根と王妃~名残恋の思い人~ 第5章  一時の平穏
 大戦時代、医務室長が陛下の軍に拾われるまで苦楽を共にした女性。
 奴隷として、兄と父、そして母の劣情の犠牲となり犬畜生同然の生活を強いられていた彼を助けてくれた、女性。

 そう、彼を、医務室長を助けた女性こそ、我らが主たる女官長。
 そして医務室長が愛するのも、女官長その人である。

 巷では、性格のきつい女官長が結婚出来ないとか、嫁のもらい手が無いとかいうバカどもは結構いるけれど、そんなのは全てお笑い事でしかない。
 いや、医務室長だけではない。
 表だって居ないだけで、医務室長が秘密裏に葬っているだけで、女官長を見初める者は居るのである。そう、内面に惚れ込む真に見る目のある者達が。
 そんな彼らには、それこそ女官長が無意識に発する恐ろしいまでの威圧感など微塵も感じられないらしい。やはり愛は偉大だ。
 もちろん、そんな相手など絶対に近づけないが。

 ただ、それは医務室長も、である。
 いくら昔からの付き合いで、本気で愛していると言っても、それで全てがすむ筈が無い。
 彼女の腹心の部下であるこの場にいる女官達は鋭い観察眼で観察し続けた結果、彼ならば大切な女官長を任せても良いと判断した上で、主に近づく事を認めたのだ。
 でなければ、いくら上層部と言えど抹殺しにいっている。

 それ程に、彼女達は女官長に心酔していた。

 そうしてひとしきり主の作品を褒め称えた女官達は、次の作品に視線を向けた。
 そして、ぐっと息を呑み、腹に力を込めて覚悟を決める。

 やれば出来る。
 自分達こそ、競争率の激しいあの戦いを勝ち抜き女官長の側近となった者達。
 そう、この程度の事なんて問題ではない。
 自分達はプロだ。
 今ここでその手腕を見せずして、いつ見せーー。

「素直に下手って言っていいよ」

 作品を手にプイッと顔を背けた、可愛らしい小動物ーー

 いやいや、王妃様の姿に女官達は衝撃を受けた。

 か、可愛い!!
 も、萌え!!
 何、この可愛い物体!!
 欲しいっ!

 と、思わず我を忘れたものの、すぐに自分を取り戻す。
 そして王妃様にその様な先制攻撃をさせてしまった自分達の不甲斐なさに目眩を覚えた。

「そ、そんなっ! 王妃様、何を言われるのですっ」
「そうですわ! そんな素敵な作品を下手だなんてっ」
「流石は王妃様の作品ですわっ」
「むしろ、それもまた国宝級です」

 それこそがーーと言わないのは、やはり女官長を敬愛する側近という身だからか。
 それはそれで好ましいが、果竪からすればいらない気を遣わせてしまっている事には変わりない。

「果竪様、彼女達は私の信ある者達。王妃様に対しては、嘘などつきません」

 それは逆に言えば、王妃様以外にはつく事はあるという事。

 策略、謀略、智略。
 必要とあらば、噂を駆使して他者を陥れるが、それが王妃様に向く事はまず無い。

「だと思う。目は嘘ついてないもん」

 下手だってーー。

 きゅっと作品を胸に抱き締める王妃様に、女官達は自分達を激しく叱咤した。

 私達のバカ!!
 王妃様を傷つけてどうするのっ!!
 むしろ心内を悟られてどうするのっ!!

 というか、時には女官として、時には社交界の華として噂を操り敵を撲滅する彼女達の心内を読む王妃様をむしろ称えるべきだが、あせりまくった彼女達はまったく気づかない。

「『そんな程度の代物なんて、女官長の目に触れるのもおこがましいわこのタコっ!!』って罵ってもいいんだよ?」
「王妃様?!どうしてそこまで自虐的にっ」
「しかもそれは、この前王妃様を侮辱していた某貴族の台詞!」
「一体何処でその様な言葉をお耳に入れたのですっ」

 完璧な女官達。
 優秀な女官達。

 そんな彼女達のディフェンスを突破する、実は結構凄いかもしれない王妃ーー果竪。

「この作品の凄さを知るのは、愛する大根だけで良いのよっ」
「そんな王妃様!」
「大根などより私達の方が王妃様を愛してます!!」

 それはそれで色々と問題があるだろう。
 お慕いしていますを通り越し、愛を告白する女官達。
 陛下に聞かれれば、笑顔で抹殺される。

 そんな腹心達に、百合亜はため息をついた。

「果竪様、その様に私の部下達を苛めないで下さいませ」
「い、苛めてなんか」

 反対に焦りだした果竪に、百合亜はその冷たい硬質な美貌に笑みをのせた。
 それは、誰もが見惚れる優しい笑みだった。

「果竪様、私も最初は裁縫はそこまでの腕ではありませんでした。ただ、何度も何度も練習して、ここまでなったのです。それに果竪様は元々手先が器用なのですから、きっとすぐに私など越えてしまいます」
「そ、そこまではいかないと思う」
「いいえ、なりますよ」

 そう言うと、百合亜はそっと果竪が胸に抱く作品を抜き取る。

「後はこことここに飾り刺繍をしましょう。そうすれば完成です」
「え? まだ完成じゃないの?」
「メイン部分は出来ました。ですが、それだけでは少々物足りないかと思いまして。ですから、ここに凪国王家の紋章を挿しましょう」

 そして陛下にお渡ししましょうと話す百合亜に、果竪は困った様な顔をした。
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