大根と王妃~名残恋の思い人~
第3章 哀しみの朝
「果竪、実は今日の未明に陛下がお帰りになりましたわ」
「そう」
朝食はどれも美味しそうだったが、食欲が全くわかない。
しかし、これを作ってくれた料理人や食材を育ててくれた農家の苦労を思うと、果竪は箸を置くことが出来なかった。
一方、一ヶ月ぶりの夫の帰還に対してあっさりとした反応の果竪に、明燐は訝しげに眉をひそめる。
「果竪?」
「え、あ、何?」
「様子がおかしいようですが」
いつもの果竪であれば、萩波や今回の反乱収束に向った者達に怪我はないか聞いてもおかしくはないのに。
「えっと……ごめん、考え事してた」
「また大根の事ですか?」
果竪が考えている事の大半は大根の事である。
大根こそ自分の全てと言って憚らないその思考が本気で心配だった。
しかし、これまた明燐の予想と違い、果竪は笑った。
それも……とても儚い笑みだった。
まるで今すぐこの場から消えてしまいそうに感じられ、明燐は慌てて果竪の腕を掴む。
その痛みに、果竪は箸を落とした。
コロコロと転がるのは、たった今まで箸で持っていた里芋である。
「明燐?」
「何か……ありましたの?」
何かあった
明燐は直感で思った。
「何かって……何もないよ」
「本当ですの?」
「うん」
そう言って笑う笑顔は、何時もの花のような笑み。
明燐は果竪の手を離した。
「私の考えすぎでしたわね……申し訳ありません」
「心配かけてごめんね」
そう言うと、果竪は再び箸を手に持ち椅子から降りて床に転がった里芋を掴む。
落としたものでも食べるという貧乏性は王妃になっても変わらなかった。
その後、食事の片付けが終ると、果竪のもとに茨戯が訪ねてきた。
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