イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
あるいは、キキ様の話しでもいい。
とにかくいろいろ言って、様子を見てみよう。
こいつは、見た目の通りに、まだまだ子供なんだ。
自分の強いところも、弱いところも、まだ分かってはいないように見える。
ネストの機転で、俺は希望が見えてきた。
俺も何かしなくては。
俺は、黙ってしまったトルカザから何か引き出せないかと、話しかける事にした。
「そう言えば、母君の肖像画がサントルキシアにかかっているのを知っているかい?ミナン様の美しさに憧れる者は多いんだ」
「お母様の肖像画?そう言えば、僕達が散策していたとき、絵を描いてもらったと言っていたな。お母様は、今も元気でいてくれている。試合はあんまり好きじゃ無いんだが、今日は、父上の代わりに見て下さる事になっているから、紹介しよう」
「そうか、楽しみにしてるよ。ミナン様がイルバシットを訪問なさった辺りから、ラスカニアを訪れる戦士が増えた。俺も、いつも憧れていたんだ」
今も元気でいてくれている、とはどういう意味だ?
元気でない者もいると言う事か?
「イルバシットもアルカザンを見習わなくては」
ネストの声だ。
「イルバシットなら、王族の移動には小隊が付くところだが、アルカザンはそれさえいらないほど、平和なんだな。羨ましいと思わないか」
アンタゴの町には、庶民の行き交う姿が見えたが、一人の騎士の姿も無い。
とても静かだ。
城に向かう道とは思えない。
トルカザは、平静を装っているが、力の入った手が、彼の緊張を表している。
「アルカザンでは、護衛などいらないんだ。キニラ川のお陰で、外敵は入ってこないからね」
「山国のイルバシットでさえ、間者の侵入を心配するのに、見たところ兵士の姿も無い。これほど少なくていいと言う事か。羨ましい限りだな」
俺がそう言うと、ネストも続いた。
「本当に。我らのように旅をする必要も無いし」
俺達は、二人で話しながら、トルカザの様子を見る。
「帰ったら、実に平和な国だったと、報告しなくてはな」
「あぁ。これでキキ様が元気でおいでなら、これ以上の事はなかったのに」
「そうだな、キキ様がイルバシットを訪れた時、俺達はまだ戦士になることも決めてない子供だった」
98