イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
「さっきのより渋くていいな。小さくて、使い勝手も良さそうだ。やる気が出て来たぜ」
「僕だってまけないよ。悪いけど、僕は国軍の歩兵を預かってる。平の剣士じゃ無いからね。覚悟して待っててよ」
トルカザは、小憎らしいほど自信にあふれて見えた。
自分から言い出した事なんだから、強者だとは思っていたけど、まさか歩兵隊の隊長様とは。
バルザンは、微笑みで焦りを隠し、一から作戦を練り直す。
しかし、剣士同士、実力の差を埋める物が必要だ。
俺の方が優れている点、もしくは彼の弱点、どちらかが分かればいいのだが。
バルザンは諦め半分、ルピンで待つはずのシーナの顔を思い出した。
もう間に合わないかも知れないな。
実を言えば、一日の余裕もなかったのだ。
それに、ネストにはもう恋人だと言ったが、本当の所は待ち合わせをしただけ。
旅の記念の金の塊を分けて上げるよと言っての事だった。
よりによって、なんでキキ様の孫になんか出会うのか。
その上試合をする羽目になるとは…。
バルザンは、落ち着き払うネストに感謝しながら、やっとの事ではやる心臓の鼓動を抑えた。
「アルカザ様はお元気なのでしょうか?今日こそゆっくりお話を伺えるものと楽しみにしていたのですが、お忙しいと聞いて、また心配が募ります」
突然ネストが話に割り込んだ。
そうだったな、ネスト。
こいつは、さっき、俺達に弱点を見せてくれたんだ。
俺はネストの方は見ず、下を向く振りをして、ネストの目の前に座るトルカザの表情に集中した。
初めにアルカザ王の名前が出た時から、トルカザの手には力が入ってる。
ゆったりとしている振りはしても、一度も動きを見せ無いのが、力の入っている証拠だ。
「父上は元気だよ。でも、いろいろ忙しい。イルバシットの戦士達とばかり会ってはいられないんだ」
返事をする時も、大きく息を吐きながら、苦しそうだ。
俺は、トルカザに気づかれないようにネストに触れて、作戦が立ったことを告げた。
ネストは了解したらしく、適当に話を終わらせた。
俺は、トルカザと力比べに出て、彼に話しかけ、彼の心を乱す作戦に出ることにする。
アルカザ王は、本当はご病気なんじゃないのか。
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