イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
「こんなに柔らかい寝台も温泉も、久しぶりな気がするよ。旅の空には思えないな。何より、可愛らしい召使いがいる」
「飯の事じゃないのか?全く君らしいな!さあ、さっさと済ませて、カルタゴへ急ごう、いろいろあったが、まだ三日しか経ってないんだから」
「あぁ、力はついた。休んで良かったのさ。試合に勝って、馬車をもらおうぜ」
「馬車か。それはいい。三日三晩の宴を断る代わりに、それくらい出してもらってもいい」
話を交わしている最中に、ノックが聞こえた。
「おはよう!おきたかい?そろそろ城に行かないか?今なら、父とも話が出来る」
「分かった。すぐ出られる。外で待っててくれ」
バルザンの声だ。
「アルカザ様は、どちらかに行かれるご予定でも?」
しまったと思っても、もう遅い。
トルカザの言葉は、遅れて、言い訳となった。
「忙しいのさ。試合はおじい様が見て下さるから。それでいいだろ?」
問いつめたわけでもないのに、トルカザは慌てた。
明らかにおかしいと感じた二人の戦士は、黙ったまま、互いの顔を見合わせ頷きあった。
「すぐ用意する、馬車で待っててくれ。なあトルカザ、一つ頼みがある。俺達イルバシット組が二人とも勝ったら、表に止まってる馬車をくれないか?急いでるんだ」
話がアルカザ王からそれて安心したのか、トルカザは扉を開け、入って来た。
「馬車って言ったって、あれは王室用だよ。君達には少し贅沢じゃないかい?」
「そうかな?別に、もっと小さい二人乗りでも構わない。馬も、走ればなんでもいいさ、実は、恋人をカルタゴのルピンで待たせてる。振られたくないんだ」
「そうか、引き留めたのは僕達だし、分かった、君達が二人とも勝ったらだよ。馬車はいくらでもあるから、僕のを上げよう。表のよりずいぶん小さいけど、荷物もお土産も積める丁度手頃なのがある」
「ありがとうよ!これで頑張り甲斐があるってものさ」
「じゃあ待ってるからね」
トルカザは、嬉しそうに出て行った。
同じ位の年なのに、少し子供に見えた。
なに不自由ない暮らしをしている王子と、不安を抱えながら旅をしている自分達との、気持ちの違いなんだろうか?
話をするうち、彼らの方からどんどん気を許してくれたように思える。
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