イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
二人とも邪な考えにとらわれて、暗闇に落ちて行くような者には見えない。
私は、憤り、王座はいらぬと、叫びそうだ。
しかし、国をあずかる事の重さを打ち払う事は難しい。
敵は私自身の中にいることも、自分の弱さに勝たなければ、事態が進展しない事も私は十分分かっていた。
私には、時間という味方があった。
リャウドは王子につき、暮らすうち、彼らに情が移ったらしい。
今では、この眠りの現況が自分だと知られる事を恐れていた。
強い香りでかける、眠りの術は、解くのは簡単だ。
目覚の言葉を聞けばよい。
それは、リャウドの声でなければならないし、時間も決まっている。
術が弱まったのは、単に、目覚めの時間が近づいたからなのかも知れない。
そして、リャウドは迷っている。
本当に、自分の怒りは、正しいのだろうかと。
誤解だと気づいて欲しい。
私とサラドは友達なのだから。
サラドは、旅を意味する言葉を残し消えたが、その言葉を裏返すと、ふるさとを意味する言葉になる。
彼のふるさとは、今リャウドの暮らしている東の街アンタゴではなく、北の街ユマインだ。
そこには、学生や、その先生、学問書を収めた書庫などがある。
医者であるサラドには、知り合いがたくさんあるのかも知れない。
時間が経ったのが信じられないほど、サラドへの友情は変わらなかった。
今イルバシットから来ている戦士達が帰ったら、訪ねてみようかという気になった。
「兄様、そろそろおじい様を呼びに行こうか?」
「いや、おじい様は呼ばなくたって来るさ。それより、イルバシットの戦士達が来てくれなかったらすべて初めに戻ってしまう。彼らの様子を見に行こう。お前の相手は心配ないが、王子が心配だ」
アルナスは、ネストが持っていた帯に縫い取られていた白い薔薇の絵は、間違いなく王子の証と知っていた。
イルバシットに遊びに行ったとき、王家の色は白だと教わった。
白い帯は、許される者もあるが、縫い取りまで白が許されるのは、三つの王家だけなのだとおばあ様から聞いていたのだ。
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