イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
隣り合った部屋に別れ、寝台に寝転がったものの、バルザンは眠れなかった。
俺の運命の友は、何を隠しているんだろう。
どうして悩みを打ち明けてくれないんだろう。
考える度、バルザンの心は暗闇に落ちていく。
旅立ちの前日のように、胸がさわいで眠れない。
結局、夜が明けるまで、寝返りを繰り返し、やっと寝ついたところで、ネストに起こされた。
「どうした?君にしてはゆっくりしてるな。調子が悪いのか?」
「違うよ、お前が何か悩んでるのが気になってさ、考えているうち、朝になっちまった。俺も弱っちいもんだな」
ネストに悪びれた様子が無い事に、バルザンはほっと息をついた。
「そうか。悪いと思うが、旅が終わるまで言えないんだ」
「気になるだけで、なんとも思っちゃいない。俺にだって、人に言いたく無いことくらいあるさ」
「君の事、軽々しく考えたわけじゃない。でも………。朝飯を用意したんだ、腹ごしらえしないか?」
バルザンは、ネストと言葉を交わしているうち、悩んでいた夕べの心を忘れてしまった。
心には、多分小さな棘が刺さっている。
しかしそれは、不信という棘ではない。
「あぁ、何だか昨日から、飯を食った気がしないもんな。腹一杯食おうぜ」
ネストは、いつもの顔でわらった。
もう、さっきの話は終わりだ。
「あの小さい方は、結構強いぞ。きっといい運動になる」
「俺は負けやしないさ。まさか、あんな子供に」
「彼らはキキ様の孫だよ。体が小さいだけで、僕達と年は変わらないさ」
「そうだな、油断は禁物。アルカザンに行ったら、競技会には出ても、王室には近づくな。それが原則だもんな。図らずもこんな事になっちまったけど、俺は、楽しむつもりだ」
「一つ気になるのは、アルナスの言葉だ。キキ様は、今も生きているみたいな言い方だった。マーキス様が葬儀に出ておられるのだから、そんなはずないが…。君はなにか聞かなかったか?」
「わけの分からない事を言い出す奴らだぜ。俺にもキキ様の墓碑がどうだとか、お前が、シエラ家の王子だとか。薔薇の蝋燭を見られたろ?」
「そうか、何だか面倒な事に巻き込まれたな」
「楽しもうぜ。王子様と手合わせ出来るなんて、一生に何度もない事だからな」
ネストは、不安を隠しきれず、窓の外に目を落とした。
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