イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
8 王子の絆
キキの眠ってしまった日から、十年余りが経った。
アルナスはもうすぐ十七才、トルカザは十五才になる。
沈黙の日が始まったあの日に比べれば、ずいぶん状況は良くなっていた。
アサンという騎士が眠りから覚めるヒントをくれてから、国王アルカザも、実務が出来るようになったし、おばあ様も、食事が出来なくても、必要な栄養をとれているらしい事が分かったのだ。
おじい様は初めから変わらず執務が出来たし、お父様と話が出来るだけで、二人の王子は、すべてが無事に終わったように感じていた。
そんな時、イルバシットから、二人の戦士がやってきたのだ。
彼らは、競技会に出たがるイルバシットの戦士達とは、どこか違っていた。
「兄様、どうかしたの?兄様は、投げ斧の使い手が相手で良かったの?僕の相手の方が、強いよ」
「彼が僕の望みだよ。彼が雪薔薇の戦士に違いない。おばあ様は、彼を墓碑に導けと言ったんだろう?」
「えっ!あんなに否定していたのに、やっぱりそうなの?兄様は、何か見つけたって事かい?」
「ヒントのようなものは見つけたんだが、彼はまだ否定している。試合が始まったらお前は、あの剣士を惹きつけておいてくれ」
「もちろん、よそ見なんかさせやしないさ。でも、一緒に試合をするわけじゃないでしょ」
「ネストは、彼に内緒にしておきたい事があるらしい。だから彼が試合をしている間がチャンスなんだ。バルザンの意識が彼から離れている間に、彼と話をする。おばあ様のためだ。彼だって嫌とは言わないさ。それにしても、お前が思う存分闘える相手でよかったよ」
「早く、おばあ様に会わせてみたら?」
「今会わせようとしても、ネストは承知しないよ。イルバシットの戦士としては会うだろうが、それでは意味がないかも知れない」
「トルカザ、お前は、試合を楽しむんだ。後は僕がうまくやる。頼んだぞ」
「兄様、良く分かった。兄様と稽古してきたこと、存分に試させてもらう。もしかしたら、この沈黙から覚めるかも知れないんだからね」
二人の王子は、強い見方を得たように、心を浮き立たせた。
王子達は、父の寝室に向かい、その顔を見つめた。
眠っていてもいい、ただ父の顔を見たかったのだ。
90