イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
「アルカザンもイルバシットと同じく、武術競技会が盛んです。国王から参加を勧めれば、アルカザンの王室も、常にイルバシットを意識するようになるでしょう」
「それはいい。常に、イルバシットを意識してくれれば、姉の事もおろそかにはしないだろうし、何か分かるかもしれないな」
「ガルダよ、アルカザンの地図に、競技会に参加した者に金を遣わすと書き足しておけ。愚かかもしれぬが、何もせずにはおれないのだ」
「御意」
ガルダはそう返事して、マーキス王の執務室から下がった。
王の側近をつとめているのは、キラである。
王族の男子は、国王の資格を逸した場合、国賓の接待や、国王の代理人を勤めるのが習わしだが、彼は実務に付くことを強く望んだのだ。
そして、いまイサと共にここにいる。
息子が王座に就いた時、良い助言をしたいという思いもあり、そして何よりも、この国の未来を明るい物にしたいからだった。
その思いは、国王マーキスにも伝わり、二人は、強く結ばれていた。
「マーキス様、イルバシットの星読みも、キキ様の運命も、信じて良いのでは」
「ありがとうキラ。そうだ。姉が、そう簡単に負けるわけはない。ガルダの言葉も、一度として、私達を裏切った事はなかったな」
「御意」
「君の家の王子が無事に戻る事を祈っているよ」
「ありがとうございます。実は、ここにいる特権を利用して、ガルダに見てもらったのです。息子には、王子が産まれるらしいです。そして、妻が名前をつけるらしい」
「そうか!ガルダと会うこと自体が難しい事なのに、君はついてる」
「はい、この罪にはどんな罰を」
「君がここにいなければ、起きない問題だ。君の実務を許した父の罪だ。君に罰を与えるつもりはない」
「それではすみますまい。国の宝をかすめ取ったようなもの」
「ならば、イルバシットに尽くして返すが良い。どんな王が私の跡を継ごうと、尽くすがよい」
キラはマーキスの心の大きさに、自然に慰められた。
キラの息子、ゾラはその年ラスカニアから花嫁を連れて帰った。
第一番目の時期国王候補だ。
後十五年の間、王家から旅立ちをした王子がすべて候補となる。
十五年の期限が過ぎると、国王とすべてのトルキナスで、次の国王が選ばれることになっている。
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