イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
「姉さん、アルカザは本当に心配している。何かあるなら話してくれないか。力になるよ」
「話すわよ!話しに来たの。父さん母さんにも会いたかったけれど、今回は、あなたと話すのが目的よ」
「ラスカニアからでも気づくほど、私は至らないとでも?」
「違うわ。まだなにも起きていない。これからエジプトの使者が来るの。その前に、塩の流通を止めなさい。エジプトの砂漠は今砂嵐で塩を取ることが出来ないの。おまけに海塩の濃度が下がって、事塩に関しては、困り果ててるわ。不利な条件の条約を結ばされる前に、先制するの。先の雨で塩が水に浸かっていると言えばいいわ」
「星が読めるようになったのは本当だったんだな。それは心配だっただろうね。だけど、イルバシットにはビダ家がある。ちゃんと詠んでくれたよ。事故があったと注文を断ったところだ。心配して痩せてしまったのか?遠く離れているから、必要以上に心配になるんだ」
「そうね…。そうかもしれない。予言を受け取れるようになって、まもないから、焦ってしまうのね。心配でならなかった。でも、大通りを眺めているうち少しは落ち着いたのよ」
「姉さん、会いたかった。だからそのまま来てもらったんだ。相談したいこともあったし、アルナスとトルカザの顔も見たかったからね」
「相談したいこと?あなたの困りごと。メラノとは話し合ったのでしょうね?それに、もう結論は出ている?私には、何も見えて来ないと言う事は、そのあなたの出した結論が正しいと言う事なのね!」
「姉さん。父さんは、姉さんにさえこの国の未来を託そうとはしなかった。それに、メラノの両親に、彼女を幸せにすると約束したし。僕の任期はまだ15年有るからね!しっかりと務めるつもりだ!」
「姉さんには、もう隠し事は出来ないね!」
キキは、マーキスの未来には安心し、夫カザルスの病には、憂いていた。
立ち入り禁止となった今も、ここからはよく見えた。
口には出さなかったが、近くに石の破片が散らばったらしきことは良く分かる。
何とか理由を付けて、あの辺りを歩きたい。
考え事をする姉の横顔はやはり何かあるように見えたが、滞在しているうちに聞き出せば良い。
マーキスはそう考えた。
きれいな虹が見られそう、少し笑ってキキはそう呟いた。
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