イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
そうだった!子供の頃の記憶が蘇って来る。
ここを入ると、宮殿とつながった回廊に出るんだった。
二階建ての一階部分に見えたのは、前門なのだ。
すでに、扉が開かれていて、馬車は青い絨毯の前に止まった。
私は、二人の息子を起こすと、久し振りに、腰を伸ばした。
上の王子アルナスは馬車の窓から、私の背中を見つけ、転げ落ちるように、追いかけてきた。
「父上、どこ行くの!白いお家!きれいだね」
「綺麗だぞ!アルカザンの宮殿より、ずっと贅沢な金の飾り付けがしてある。青い宝石も沢山埋め込まれている。おばあ様の剣に埋め込まれている青い宝石だ」
「うわぁ、真っ白だね!トルカザ!速く起きろ!」
アルナスは馬車に駆け戻り、弟を引っ張り出した。
「兄さん、眠いよ!お母様は?お母様のところでねたいんだ」
「トルカザ見てよ!おばあ様の生まれたお家に入れるんだ。いくつ宝物を見つけられるか競争しよう。すごくきれいなんだって」
「わぁ~!兄さん、負けないよ」
いつの間にか、私は二人に追い抜かされ、駆け出す二人の背中をみることになった。
大人になって初めての、イルバシット王宮サントルキシアの中だ。
天井に張ってある薄く磨き上げられた石から、柔らかい光が射し込み回廊は、驚くほど明るい。
白い石は、イリシャの白紗石、ヒンヤリと冷たい空気をもたらす。
石で象られた動植物の像が置かれ、金の飾り付けがされている。
二人の王子は、走り回り、歓声を上げる。
私は、妻の手を取りながらゆったりと、案内の騎士の後ろを歩く。
母は、騎士とも顔馴染みらしく、すぐ横の扉を開けて、庭に出て行った。
代わって、騎士のイサが、テラスの扉を開けて、口上を述べはじめた。
「ようこそおいで下さいました。今は、イルバシットで一番美しい季節です。空に二つの虹が良くかかります。ラスカニアでも、吉兆だと聞きました。どうぞ、この庭で、イルバシットの自然をお楽しみ下さい」
「なるほど、そう言う趣向か。三つの王家の庭でしたね。じっくり楽しませてもらおう」
母の家の紋章である柊、そして百合と雪薔薇。
それぞれが庭の至る所に植えられ、茂っていた。
ここは、主人を代えながら、ずっとイルバシットを守って来た、国の象徴だ。
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