イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
それでも、他国の侵略を免れてきた大いなる理由は、大胆な石の使い方や、地道な防御策にある。
子供の頃、小さな国のたゆまぬ努力を目にして、なぜだか偉大さを感じて来た。
ラスカニア国王になってからは、初めての訪問だが、心の中は、あの時と変わってはいない。
そして、後ろの馬車から聞こえて来る、母と妻のため息のような歓声を聞いていると、家族を連れてきて良かったと思えるのだ。
国王の宮殿を目指して、広い中央通りを馬車はまた動き出した。
通りの両側には、商店が並んでいるが、今は、私達の為に花が飾られ、正装の剣士が剣を捧げ持っている。
我が国も小国だが、それと比べても、圧倒的に人口は少ないはずだ。
その中からこれだけの数の、精鋭を育てるのは、並みの条件では不可能だろう。
しかし、ここではそれがなされている。
この国の成り立ちに、秘密があるのだ。
結束が堅いのは、国民の多くが血縁でつながっているからであり、戦士が育つのは、厚い待遇があるからだ。
母は、旅を始めた三つの家のうち、ラゴン家の姫だった。
その昔、三人の兄弟は、王国を守る騎士の家で生まれた。
彼らの母親は貴族、父親は第三王子である。
私は、イルバシットの成り立ちを、そのくらいしか知らなかった。
彼らが、外に向かって説明する範囲の事であった。
これから先は、母親が、口を滑らせた内容だ。
兄弟が成長し、伴侶を探す年になったころ、エジプト王家にクーデターが起きた。
兄弟の祖父に当たるエジプト王は、王座を失い、偽物の血筋だという烙印をおされた。
正当なエジプト王家の血筋が守られる事を信じ彼らは、新天地を求め、旅に出たのだ。
彼らは、いつの日かエジプトを奪い返す事を目標にしている。
強い団結は、そう言う、国の成り立ちから生まれている。
しかしそのエジプトとも今では、条約を結んでいるのである。
イルバシットは、今重大な別れ道の上にいるということだろう。
美しい城は、他の国とは違い、白い石の二階建てだ。
この高い山に、石を運ぶには、やはり限界があるからか。
あるいは、狭い大地を、王族や貴族が占領しない為の気遣いかもしれない。
どちらにしても、城は大きくはなく、宮殿と言った方が当たっている。
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