イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
「全く、こんな馬車に乗せやがって…」
そう言い終わる前に、スミルは、欠伸をして眠ってしまった。
リャウドの方は、もうこの眠りを誘う果物のような香りにはなれていて、眠った振りをしているだけだった。
しかし、起きていてもやることがないから、目を瞑る。
イルバシットは、ラスカニアに対して、全く敵意を持っていない。
これからずっと、長い平和を築く事になると、信じている。
王家の付き合いが上手くいっている事にはローダとカザルス、キキの力も大きかった。
こうやって、小さな旅団で旅が出来ることが、もたらされた幸せである。
アルカザも、二人の王子も、ウカの葉の睡眠導入効果で、やがて眠ってしまった。
森が終わる頃には、道の上にあった岩石は片付けられ、馬車が通れるくらいの山道が出来上がっていた。
そして、馬車の通り過ぎた後にはまた、岩石が置かれていた。
石を扱うトルキナス達が、今日は総出で汗をかいていた。
追い詰められたら逃げ場はない、そんな山国だからこそ生み出された地道な防御策だ。
溶岩に守ってもらってこそ、イルバシットは存在出来るのだ。
馬車が止まると、不思議に皆が目を覚ました。
大きな石の城門が開かれていて、馬車はまたゆっくりと動き出した。
奥にもう一つ扉が見える。
その石の扉は、分厚く重そうだ。
一行が門の中に入ると後ろの門は閉められ、前方の重い石の扉がゆっくりと動き出した。
後ろの扉とは違い、前方の扉は、轟音を立てながら、左右に開いた。
二十人余りの騎士団と、二台の馬車は、驚くほど厚い石の門を通るとき、わずかな恐怖を感じて、ゆっくりと歩く事が出来なかった。
馬車は走るようにイルバシット王国の地を踏んだ。
すべての騎士が門の中に入った事が確認されると、数人の門番が、太い縄に向けて、斧を振り下ろした。
すると、地響きを立て、驚くほど速く、重い門は閉じられてしまった。
どんな仕掛けなのか、想像してみる。
案外、石の重みと傾斜を利用した簡単な仕掛けなのかもしれない。
しかし、一度これを見た者は、轟音と、巨大な石の動きの速さに圧倒され、イルバシット王国を、侮れない相手と思うだろう。
小さな国だ。
圧倒的に兵士の数は少ないはず。
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